怪奇についての僕の経験
凧
怪奇。
怪奇とは。
この世のものとは思えない事象などのこと。
そういう意味では僕の経験も怪奇なのだろうか。
3年と2ヶ月前。
高1の初めの頃だ。
新しい場所、新しい人達、新しい環境に慣れ始めてきたころだった。
外は桜が散り始め、所々桜を残した木々が窓から姿を覗かせている、そんな清々しい天気だった。
僕の通学路は、寂れたどこか不気味な神社の前を通り、商店街を抜け、ようやく学校に着く通学だけでもしんどい、とにかく嫌な通学路だった。
そこを通らずとも通う道はあるのだが、結局その道が一番近く遅刻が少ない道だったため、仕方なくその道を使っていた。
神社の前はいつもひんやりとしていて、寂れた雰囲気がより一層強調されていたように思う。
そんな神社の前より不思議だったのは、その先にある道で、横がブロックで囲まれ背丈を大きく越す高さで、まるでここから逃さない、ここを絶対に通らせたいという雰囲気がそこにはあった。
だが、そんな道を抜けた先に、何故か毎回大判焼きの店があり、朝飯代わりに食べることも多々あり、店主の顔は今でも鮮明に覚えている。
最初の頃はそのブロックで囲まれた道を通る度に、どこか不安を覚えてすぐ駆け抜けていた。
だが、人間の慣れとは凄いものだ。
2週間もすればなんの不安もなくなっていた。
ブロックの先に家とかの家屋がないかって?
普通はあるんだろう。
だが僕の通学路だった、そのブロックで囲まれた道は家屋とかの類が一切無かった。
奥に何かがある訳でもなく、ただ壁がある、ただただ本当に不気味な場所だったと思う。
ちょっと話がズレたね。
一旦戻そうか。
そんな道を1ヶ月くらいかな、通ってた時に不意に後ろを誰かがついてくる感じの雰囲気が、いや音がついてきてた。
僕が一定のリズムで歩くと、それに対して僕が踏み出す一足前に足を出す。
まるで自分に気づいて欲しいような不思議な音で、臆病な僕には怖くてたまらない経験だった。
でも僕に危害を加えてくる訳でもなく、本当にただついてくるだけだった。
次第に僕も慣れてきて、変なことしてくる幽霊もいるもんだと高を括っていた。
だけど忘れもしない。
どんよりとした曇り空を広げていた5月の半ば。
その日は、二度寝をかましてしまい、家を出るのが10分遅れてしまった。
たかだか10分の遅れだと思うかも知れないが、僕からすると自分のルーティンが崩れるのが何よりも嫌だった為、大急ぎで荷物や制服の支度をして家を飛び出した。
いつもの神社の前を抜け、あのブロック道を抜けようとしたのだ。
だがその道がただ果てしなく続くのだ。
抜けようとしてもただ果てしなく奥が続いていくのだ。
戻ろうとしても帰りの道もまた果てしなく続いていた。
もう本当に大焦りだった。
いくら進んでも進まない。
戻ろうとしても戻れない。
ただ僕の足音に遅れて続いてくる足音だけだった。
100歩
200歩
300歩
1000歩
2000歩
10000歩
ただ歩いた。
永遠とも思うその道は、気が狂いそうだった。
景色に変わりはないのに、疲労は溜まっていく一方。
遅刻のことなんか一切気にしていなかった。
僕に続いてくる足音にも変化があった。
増えている、明らかに。
最初は一人だったのが2人、3人と増えているのだ。
たん たん たん たん たん
間隔を開けて鳴っていた足音は、10分もすれば拍手の様に重なって僕の足音に合わせて鳴っていた。
いつしか進もうとする足も、戻ろうする足も止まっていた。
これ以上動いていいのか、そんなこともわからない。
気が狂いそうな中、踏み出した足にまた他の足音が重なる。
なにかおかしい。
後ろじゃない。
横から聞こえる。
後ろから聞こえていたはずの足音が、ブロックを隔てて横の空間から聞こえるのだ。
思わず足が止まった。
これ以上進めない、進みたくないと思い壁にへたり込んだ時、
聞こえる。
息遣いと思わしきか細い音が。
すぅ すゥ すぅゥゥ すゥ
不規則に、変わらない音がしていた。
怖くなった、本当に。
壁を隔てた先に、得体の知れない人ならざる者がいるという現状に酷く怯えたからだ。
ただひたすら走った。
足音はついてくる。
足音以外の音を漏らさず、ただ僕の走る足のリズムから少し遅らせたあの異様な足音が。
5分くらい走ったのだろうか、目の前の景色に変化が起きた。
看板が出てきて、その先のブロックの壁に通路ができているのだ。
看板には
ひだり か み ぎか じゃか おに か
左か右か
蛇か鬼か
2択の選択ということだろう。
冷静に考えて蛇と鬼、どちらでも縁起でもないことが起きるのは明確だろう。
だけど選ぶしかなかった。
左か右か。
無駄なことは考えなかった。
右に走った。
走ってすぐ目の前の異様な光景に息を飲んだ。
壁だった場所には、無数の般若のお面がかかっており、所々面が剥がれている場所には小さい肉片がポツポツとついている人間の頭骨があった。
一つじゃないのだ、そこには無数の人骨があった。
余りの異様な光景に来た道を戻ろうしたが、戻れなかった。
あれだけついてきていた足音も気づけばなくなっていた。
だが、代わりに別の音が後ろから鳴っていた。
ギリ゙リリㇼ ガリ゙ッ ガッ ギギッギィギギギ
まるで金属を引き摺るような音だった。
鬼が金棒を引き摺るような。
走った。
ひたすら走った。
崩れそうな足を走らせた
走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った道を走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った
走った走った走った走った走った泣きながら走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った亡者から逃れた走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った鬼から逃げた走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った黄泉から走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った私を奪おうとする者から走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った足音から逃げた走った走った地獄から走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った走った
気づけば外にいた。
ブロックの通路から抜けていた。
スマホを取り出し時間を確認すると、家を出てから5分も経っていなかった。
はっと後ろを見ると、永遠と続き、地獄のようなあの道は普段の道に戻っていた。
ぼーっと道を見つめている僕を、大判焼きの店主の一声で目が覚めた。
おぉい 大丈夫か兄ちゃん?
いつものあるけんど買うかぁ?
あの場所はあれ以来通っていない。
いや通りたくなかった。
あそこは何か、この世じゃない者達が蠢き、この世の人間を連れ去ろうとしているのを、ブロックという物で壁を作り防いでいるのではないだろうか。
あの足音を鳴らしていたのは、僕よりも前だろう。連れ去られ、あの地獄で今でも苦しみ助けを求めている者達が、足音という音で気づいてもらおうとしていたのだろうか。
この話を親や友人にしても誰も信じてくれなかった。
頭は大丈夫なのか、変な本、動画の見過ぎだ。
逆に心配され、蔑みの目を当てられたよ。
まあこれが僕の経験した怪奇にまつわる話。
まったくもって、馬鹿げた話だと思う。
だがその馬鹿げたというのが、怪奇というのを象徴していると僕は思う。
現実にはありえない、起こり得ないそんな話が怪奇として現在も語り継がれているのではないだろうか。
怪奇というのは日常に潜んでいるのだろう。
電車の中、家の窓や廊下、なんてことない通学路、そんな中に潜んでいるのだろう。
闇の中で誰かをずっと待っている。
そんなあなたの後ろにも
ほら
怪奇についての僕の経験 凧 @taika2totomi
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