初めて読んだ架空戦記物になります。
こと日本では戦争を扱った物語に対し、それが架空世界の戦争物であったとしても「敗戦の歴史のルサンチマンが結実したものだ」のような言説を見聞きすることがあります。
なるほど、その言葉には一定の説得力があるようにも思えますが、大抵のフィクションというのは「⚪︎⚪︎でないことのルサンチマンが結実したものだ」みたいなことは言えてしまうので、何か言っているようで何も言ってない空疎な言葉なようにも思います。
さて本作はメニエール症候群という架空の病のため、関係者全員が若い乙女で構成された日本海軍のところに、戦争シミュレーションゲームが好きな現代の学生が異世界過去転移するところから始まります。転移した時代は真珠湾攻撃直後。
未来をゲームの知識として知っている主人公が、海軍乙女と協力してミッドウェー海戦での大敗の歴史を回避する、というお話になります。
あらすじだけを聞くとまさに「敗戦の歴史のルサンチマンが〜」みたいなことを言われてしまいそうなものですが、読んでみると非常に面白い。
・バタフライ効果があるため、成果を出せるのは一度きり。
・直接触れ合った人には未来人であることを信じてもらえているが、作戦本部など本土から信頼されるまでには至っていない。
・未来人だが歴史すべてが頭に入っているわけではない。
・登場する多くの海軍乙女はそれぞれの事情や考えがあって行動しているので、説得できたりできなかったりする。
こうした制限のある中、なんとか悲劇を回避しようと奮闘する主人公の活躍を追うことになります。
戦争を巡る各々の海軍乙女の意見、立場の違いなどは、主人公を起き、その視点から体験させるようにしたことでより立体的に感じられると思います。
戦争を嫌いながら戦争に突入していった時代の、その空気の一端を味わったようでとてもよい体験ができました。
正直に言ってしまうと、キャラクターの自己主張が強いと感じてしまう小説を読むことはまずありません。
しかしながら、当該作は気が付けば一気に読み終えておりました。
それは、上に挙げた部分を一蹴してしまうほどに強い群像劇としての側面と戦記としての側面――――そして、それらを活かす躍動感が物語の中にあるからだと思います。
多数登場する海軍乙女たち個々の個性を、ただ語尾が特徴的だとかそんなレベルで終わらせず、“生き様”とも言える領域へ昇華している文章にただただ引き込まれていくこと必至です。
これに加え、観測者たる主人公も絶妙に読んでいる側の気持ちをくすぐってくれる。
最高のエンターテインメント小説を見せていただきました。
以前から気になって暇な時に読もうと思ったら一気にラストまでよんでしまったよ(現在朝の4時)
歴史(特に戦争史)としての観点から観ても偉人女体化物としてもこの作品は当時の軍部の慢心や「英雄」に祭り上げられながらも足掻いた「一人の人間」の想いやその周りを取り巻く「人間達」の思いを見事に美事に書き上げた素晴らしい作品だと思います。
「歴史物に萌えは如何なものか」とか思っている軍上層部的な、もとい、漬物石な頭の方も「どーせハーレムな萌えだろ」とおっしゃる自分と同じブーさん方も一度「ココナッツぜんざい」が出るところまでで良いので読んでみてください。
きっと歴史が面白くなりますから・・・
『待ったなしの艦隊戦に身を投じる海軍乙女達の生き様を見よ!』
本作書籍版を購入するかしないか現時点で確定していない未来の読者諸兄に本作をどう紹介するべきか一頻り思案した結果として出てきた文言である。
本作を語る上では『乙女が先か戦が先か』と言う部分がキモであり『見目麗しい女の子達がわちゃわちゃしていて、ついでに戦争を舞台にした』のでは決してない。
骨子はあくまでWWⅡをモチーフとした骨太な艦隊戦記物であり、彼女達はそれらを華々しく彩る役所を担っている。
戦場で散り逝く命が在る事についても描写を避けたりはしていない。
あくまで戦が基礎であり乙女が基礎ではないのである。
無論エンターテイメント小説であるし、本作のファンタジー要素である海軍乙女達は皆個性豊かでカッコいい姉さん系から可愛い系まで多様な人物像で描かれており、それらが躍動感たっぷりに動き回る事も大きな魅力の1つではある。
なればこそ戦記物好きには言わずもがな、ライト層にも届く一冊たりうるのだ。
以前よりかねがねtwitter上で目に留まっていたので、いずれこれは見るべきだろうと思い、やっとこさ追いかける機会を持てました。
……いやあ、しょうじき架空という言葉を当て嵌めたくない、この重層なドラマに、読んで本当によかったという読了後の満足感。
途中涙腺緩みました、ひさびさに。
どこまでも熱く生きる軍人(乙女)たちの織り成すそれに、本当によく頑張ってくれたよともう、それだけ。
史実上の人物らを、少女に置き換えるにあたっての作者の細かい気配り、こだわりにはもう愛――以上に強いものを覚えます。
海軍乙女たちの気概、……確かに伝わってきました!
少女だけの海軍という荒唐無稽な設定。
しかし参謀として、未来人として作戦に関わる主人公の目を通して語られる作戦立案から戦闘に至る描写は、戦略的・戦術的な視点から見て隙が無く、まさしく迫真と呼ぶに相応しい。
『敵』となるヴィンランド海軍・葦原海軍軍令部の描写と併せ、執筆の背景にある豊富な知識と緻密な分析力が伺える。
そして、この作品の中で特に読者を惹きつけるもの。
それは全編を通じて鮮やかに描かれる少女達の『現在』ではないだろうか。
艦隊司令部で賑やかな日常を送る彼女達が『海軍乙女』でいられる時間には限りがあり、そのすぐ近くには戦いと死が存在する。
戦争の実相から目を逸らすことなく、戦争の中でこその輝きを描き出す、戦争をテーマにした物語の王道。
海軍乙女はそれを具現化した存在のように思える。
戦争の中で懸命にいまを生きる少女達と共に笑い、共に泣き、その戦いの行方を刮目し見守る。
そして彼女達と同じ時を過ごす間に、いつしか『未来』の価値が見えてくる。
一人でも多くの人に、この体験をして欲しい。
青春群像劇としての完成度と、戦記としての完成度を極めて高いレベルで両立させた作品。
これほど夢中で読んだ小説は久しぶりだ。
山本五十子は、いつでも笑顔を絶やさない明るくて優しい女の子。甘いお菓子が一番好きで、二番目に好きなのはお風呂に入ること。そんなごく普通の少女が連合艦隊司令長官として戦争を指揮する世界。
五十子だけでなく、若い女性を除いてヒトが海に出られない世界で、海軍は10代の少女ばかり。突拍子もない設定なのに、丁寧に練られた世界観が放つリアリティがご都合主義をまるで感じさせないです。
「架空戦記」としての歴史や政治の下地は凄いんだけど、そこにいるのは史実の人物を性別転換しただけのキャラではなくて、等身大の女の子達が葛藤しながら運命に立ち向かう姿に、心を打たれます。
異世界トリップとタイムトラベルを合わせたような設定と世界観を併せ持つ独特な作風の作品。歴史上の人物をモデルにしたと思われる登場人物たちはどれも個性的で、それぞれが好感を持てる性格をしている印象を感じました。
筆者は大戦時の知識や軍艦の知識はまったくないので、その辺りの知識がないために作品に付いていけなかったらどうしようかと不安だったのですが、物語の大筋を理解するには全く問題ありません(あった方がより楽しめるだろうことは間違いないですが)その辺りの知識は丁寧に説明がされているので、分かりやすく知識のない人間には勉強になります。
展開は歴史ifものの王道ともいえる歴史の改変(並行世界ではありますが)に乗り出すところですが、果たして主人公たちは無事それを成功させることが出来るのか、今後の展開に注目です。