最新話
15:
礼に始まって礼に終わる。
あらゆる武道がそうであるように、弓道もまた然り。
道場への出入りでは、道場の神様を祀る神棚にその都度一礼するのが習わしだ。
明仁高校弓道部では、これを部活開始の時の
そうして道場への礼を示した次は、相手に対する礼儀。
対戦相手と向き合って一礼を交わし、決着後にもまた一礼する……これは武道に限らず様々なスポーツ競技でも行われていることだが、弓道の場合は少々異なる。
弓道の競技が行われる際、それぞれが向き合う
雌雄を決する相手とは向き合わず、自分自身の内面と向き合うということだ。相手も自分も、やることはただ一つ――
自分と向き合う時間。
自分自身と闘い合う戦場。
弓道における
一年生たちの指導が終われば、和気藹々とした会話や指導の声はもうそこにはない。
直人は
両足を隙間なく揃え、爪先を内側に向けたまま腰を降ろす……この
直人が
しかし今まさに自分と向き合っているせいか、その眼差しに焦点は定められていない。まぶたが少し下がり気味なこともあって、まどろんでいるようにも見えるだろう。
事実、その呼吸は眠っている時のようにゆっくりとしたペースだ。
鼻から漏れ出るかのように息を吐き、それと同じだけ時間をかけて、腹部を膨らませながら息を吸い込んでいる……だが
そんな呼吸と連動しているのが、まばたきだ。
まばたきは毎回吸う息に合わせて行われており、その速度は一瞬。人が暮らしの中で無意識に行っている時のそれと等しく、かつ意図したタイミングで繰り返されていた。
リラックスしているように見えるその佇まい。
けれどよく見れば、隙のない動作の連続であることがわかる。日頃の修練で培ってきたモノが自然と溶け込んだ、生きた動作として昇華されているのだ。
そんな
動き始めのきっかけは、道場の玄関扉が閉まる音。
すなわちそれは、大半の一年生が家路につき、掃除当番の者も役目を終えて道場から退出したということだ。道場全体から活気に溢れた空気が抜け、静寂に取って代わっていく。
直人が動き始めたのは、そんな瞬間だった。
白羽の矢を立てて 矧 @ya-hagi
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