武道の話は大好きで、それだけで絶賛したくなるのですが、加えて期待以上の文章・内容の良さでした。平易な表現、明快な解説、しかし、弓の世界の奥深さ、面白さをとても緻密に描いていると思いました。
フィクションで弓を扱ったものはあまり読んだことがなく、漫画「NATURAL」(作:成田美奈子)以来でした。もう20年ぶりです。
久々に弓の話を読んだこともあり、またいろいろな発見がありました。
射法八節の4以降が特にお気に入りです。このシーンを読めたのは本当にうれしいです。この弓とは何か、何を思い、どう引くものなのかへの丁寧な表現が最高に感激でした。
もちろん、ヒロインのドミニクと直人とのかけあいやその他のキャラクターも魅力的でした。多くの読者に紹介できる、すばらしい作品と思います。
この作品は吃驚いたしました。私は元々テーマ性ある作品を好み、ことに武道――この場合は弓道――作品となるとまず読んでみたくなり、作者プロフィールにも現役で弓道を続けている点に特に惹かれ、読み始めてみたのですが――
弓――弓道――に関する細かな描写と言及の内容の濃さは事前に予想した通りだったのですが、それ以前に文章力がめちゃくちゃある。凝った言い回しも使わずに素直な言葉を連ねているのですが、乾いた感じにも単調にも陥らない。学校の構造や、その場の情景、光景、風景描写など丁寧でよく書き込まれていながら、言葉の並びがもつれず、煩雑にもなりません。私はネット小説を触り始めてそこまででもないのですが、それでも今まで知る限りでは別格に文章が上手いです。プロフに新人賞目指して精進しているとの事ですがなるほど……。高校での練習風景などは作者自身の実体験もかなり盛り込まれていることでしょう。高校の部活ならではの、ぎゅうぎゅうと密集した熱気と活気がこちらに伝わってきます。私の思うこういう方向性の作品の一つの理想形。
フランス人と日本人のハーフの女の子ドミニクがいかにも外向的で明るく、作品に爽やかな彩りを添えていますね。
とにかく読むのが楽しい作品です
この作品を読んだあなたは、まず、ドミニクの可愛さに惹かれることでしょう。
彼女の快活なパワー、ほっこりとする挙動、いつでもブレないその芯。生き生きとした彼女の姿には、ずっと眺めていても飽きない『華』があります。
そんなドミニクを引き立ててくれるのが、主役の直人。
作中のほとんどは彼の三人称視点から描かれており、その悟り系男子っぷりが、ドミニクの可愛さを引き出してくれています。
いいぞ、もっとやれ。
そんなキャラクター小説として読んでも楽しめる内容になっていますが、もちろん主題を忘れるなかれ。
弓道という、対戦相手がいないスポーツ=自分との闘いである武道という題材も、作者が現役の経験者(弓道教室の講師!)であることから安心して読める内容になっています。
特に、第二章の4:で描かれる弓道シーンは圧巻の一言。
一連の作法はもちろんのこと、弓道用語を使わなくても弓道の『味』と『深み』をしっかりと表現するその巧さ。
読んだ人を、いつの間にか見学者の中の一人にしてしまうほどの臨場感でした。
そうして弓道の魅力を体感したあなたは、いつの間にか入部届けにサインをしていることでしょう。
作品に入り込ませる文章とはまさにこの事。
万人向けの描写で弓道をここまで深く描ける人は他にいません。別格です。
これに専門的な要素が加わったら、一体どれほどのモノになるのか…。そんな弓道の真髄が描かれる日が、今から楽しみです。
(レビュー更新2回目 2017/3/12)