ゲーム好きの少年が人間を愛せる大人へと成長する物語

この小説の筆者と同世代であり、鬱屈した高校時代を送っていたオタクの僕にはこの小説があまりにも眩しく見えてしまう。

背景となる1999年当時はまだまだゲームを趣味にするようなオタクは高校では肩身が狭かったように思う。オタク達の大抵は自分の趣味を押し殺しながら学生生活を送っていたこの時代に、この小説の筆者である鯨武長之介氏は小説の冒頭でも書かれているようにゲームを通した交流を経て同学年の由美と言う少女と実際に結婚にまで至るのだ。

勿論、この小説は単なる自慢話や武勇伝を語っているのではない。ある日、ゲーム好きの少年と少女が高校の昼休みの屋上で知り合い、「銃兵」と言う携帯ゲームでの対戦で親しくなる。少年は「銃兵」の上手い少女の気を引くためにゲームの腕を磨いては毎日のように少女に対戦を挑んだり、休みの日にデートに誘うときの心情が綴られたある意味では正統派ともいえる恋愛小説である。

この小説ではレトロゲームのネタが各所に見られ、かつてのファミコン少年たちにはたまらない演出である。このネタの文章への仕込むリズムが心地良く、恋愛と言う重くなりがちなテーマを扱う小説を軽快に仕立て上げてられている。レトロゲームのネタが分からない方でも、筆者が文章へ一定のエッセンスを与えたいという気持ちは十分に伝わってくるはずである。

また、ところどころで夫婦になった長之介と由美が高校時代の思い出を語り合う場面が挿入される。小説の解説を兼ねており、長文を読みなれない人への配慮であろう。夫婦となった二人が高校時代を振り返るやり取りの挿入も小説を飽きさせない作りになっている。

この小説を読んで、ゲームでお互いの仲を深め合う男女が増えるようになるのを願うばかりである。

その他のおすすめレビュー

カッパッパさんの他のおすすめレビュー3