今の若者の心をスマホがつなぐように、20世紀の世紀末、登場し始めた携帯ゲーム機と一本の通信ケーブルが二人の青春を結びつけた。
ゲームを愛する夫婦が、シンプルだけど懐かしいゲームのあれこれを交えながら語る、高校時代の馴れ初めのお話です。
経験値0の男子が、屋上で見つけたヒロインといかにして交流するようになったか、そしてお付き合いするまでに至ったか?
頭の中に繰り返される、終わりのない恋愛シミュレーションゲームの選択肢……いえ、現実の女の子を前にした選択。とても透明感のあるはじけるような青春が実に清々しい作品です。
登場する商標が実名になった書籍は、実話だからこその説得力をさらに力強くし、その頃を知る人は懐かしい名前に当時を懐かしく思い出すのではないでしょうか。一方で、Web版も整理されすぎていないところがかえってよいのか、みずみずしく作者の感動が伝わってくる魅力もある気がします。
奥様がいつも繰り出す鮮やかで切れのいい切り返しに、エクセレントをおくります!
高校での出会いからその後まで、女性から見てもとてもチャーミングな由美さんに鯨武(百式)さんが惚れ込んでいく様子がとても微笑ましく、なんと純粋な人なのだろうと思う。
高校時代を思い返してみて、そうかあの頃男子たちはそんなことを考えていたのかと今更ながら感慨深くなる。
そして、当時の話の間に現在の夫婦になってからの話が挟まれており、両者の目線から読める点&対比が様々な思考を呼び起こす。青春時代の失敗なんて気にするな、と思うし、歳を重ねるのも悪くない、と思わせてくれるポイントでもある。いま青春真っ只中で黒歴史を重ねて落ち込んでいる諸君にはぜひ読んで元気を取り戻して欲しいと思う。
全編を通して、作者の温かい眼差しと愛妻の由美さんへの深い愛情に心が温められ、読後感が良い点も気に入っている。
作者とは世代的にはかなり違うが、ゲームを通して鯨武(百式)さんの心が成長していく点にはとても共感した。当時、ゲームは「子どもを堕落させるもの」扱いで、大人が目の敵にして「一日〇時間まで」なんて制限が平気であって、ラスボスを目の前にして電源を切られたと翌朝泣いている同級生を良く慰めたものだ。
しかし、ゲームだってラノベだって、その中からしっかり学べることはたくさんあるのに、大人はどうしてこうバカなのかと思ったものだ。真剣に取り組めば、人は何事からも成果を得ることをこの作品が見事に証明しているではないか。
そして、ゲーセンも当時は「出入りなんてとんでもない」という風潮だったが、こんな楽しいデートもできるところなのだと初めて知った。
いろんな発見と共に心が温かくなる秀作だ。ぜひ多くの人に読んで欲しいと思う。
物語のスタート時点では女子と会話を行うことすらままならなかった作者が、後に妻になる少女と相思相愛になるために徐々にレベルアップ(失礼)していく過程に共感を覚える。
Twitterでレトロゲームの解説を行っている作者らしく、文章の節々にレトロゲームネタが散りばめられており、ゲーム経験のある者ならば思わずニヤリとすることであろう。作中に登場するゲームおよびゲーム会社は架空の名称が用いられているが、ここに作者の独特なセンスが光っている。
本作は主に作者の視点での回想が中心となっているが、「ザッピング」として少女(妻)の視点に立った描写も行われている。作者視点での回想にはやや熱が入った記述も見られるが、少女(妻)の視点に立った記述は冷静ながらも情景豊かなものとなっており、文章の書き分けがよくなされている。
作者の行動が少女(妻)にどう映ったかが良く分かるので、不器用な男子も本作を手掛かりに恋愛にチャレンジしてみてはどうだろうか。
恐らくこのお話を読まれる方の多くは男性であり、同時に主人公と同じように青春の大半をゲーム(及び漫画やアニメ)へと注ぎ込んでいた事だろう。(かく言う自分もその一人であるw)
特に現在独り身の者は「俺もこんな青春が送りたかった!!」と涙無しには読めない者も居る事だろう。
そして中には「ゲームなんてさっさと卒業しとくんだった…」と後悔の念を抱いている者さえ居る事だろう。
たかがゲーム、されどゲーム。
そこへ至る切っ掛けは何であれ、好きになった相手のために自分を変えようと思った事、それと同時に変わらずにいて良かった事、その両方の大切さがこの作品には注ぎ込まれていると感じる。
自分も好きな事にはとことん自信をもって、今後訪れるであろうあらゆる困難に”勇気”を持って挑みたいと思う。