モノクローム・サイダー
鯨武 長之介
事実が小説より気になる。
モノクローム・サイダー
第1話 夏の過ぎゆくままに
これは小説と言うには、あまりに国語力の欠如した支離滅裂な駄文だが、例えるならば数々の偶然と結果が実を結んだ、作者自身の体験と実話を基にした恋愛エピソード。妻と昔を思い出しながら今と向き合う、そんな長話。
『不可はないが、可はもっとない』高校最後の夏を迎えた男子学生が、学校の屋上で出会ったゲーム少女と結婚まで至った、1999年の青春の一物語。
あの頃、もうすぐ世界は今世紀最後一歩手前の七月を迎えようとしていたが至って平穏だった。誰も『恐怖の大王が降ってくる』とか『世界の終末』とも騒ぎ立てることもなく、政界の汚職やらガソリン代が1円値上がりする方が世間は賑わっていた。
僕の日常も同じ。『不可はないが、可はもっとない』高校最後の夏…って、これはさっきも書いたけど、どこにでもいる量産型のゲームオタクを気取った青春をしみじみと過ごしていた。
◆
1999年6月14日(月)
昼休み、教室の隅で ”
ちなみにこれは、昨年の冬にバイトしたお金で買った優れものなのだよ。多分。
元々は白黒画面で発売されたゲーム機だったのだが、発売直後にこのカラー液晶機の発売が発表された逸話がある。当然、発売元はユーザーからかなり叩かれたらしい。
そんな孤独を愛するゲーマー(自称)を邪魔する青春の喧騒。要するに教室内で、イケテル男女たちが楽しそうにトークをしているのですよ。
「授業終わったらカラオケ行こうぜ」とか「今度、あいつの誕生日じゃん?」とか、楽しげに話しているわけですよ。
無言で、明鏡止水の心で何事もないようなオーラで僕は教室を後にする。
別にイケテル彼らに、何か意地悪を受けたわけではない。むしろ彼らは、誰とだって無難に楽しい空間を作る俗に言う『いい奴ら』なのだ。だからこそ、自分に被害妄想を言い聞かせて排気される臭気の如く僕は姿を消した。
あてもなく廊下を歩く。【昼休み終了まで残り30分】と、何かのミッション・エピソード風に頭に描くも、急展開や次のシーンに移り変わることはない。
「たまには屋上でも行きますかね」
何かのキーマンにでもなったつもりで僕はポツリと言葉を漏らした。
学校の屋上というと、日常漫画や学園アニメなんかでは、『採石場で戦う改造人間』くらいに相性抜群の組み合わせだが、実際は開放されている学校は少ない。だが、僕の通う高校では『都合よく』開放されていた。
◆
これは十数年後に思ったことだが、あのとき、屋上が開放エリアではなかったら、僕の未来は、この文を書いている今の自分は何をしていただろうか。
◆
さて、気まぐれと『何かに後押しされて』屋上に足を運んでみたのだが、照りつける夏の日差しは、アウトドア派ではない僕にはきついミニ罰ゲームの所業でしかない。実際、屋上なんて夏は暑いし、冬は寒風のデッドゾーンだと思っている。
そんな屋上だが、やはり人の数はまばらと言うか、ほとんどいない。入り口の壁際の影で涼みながらNGPでも遊ぼうと思うところだが、そのとき、少しだけ僕の視線と思考は静止する。
屋上の奥と言うか、少し離れたところで腰をかけてうつむく一人の女子生徒。気にもかけなければ、あまりに薄い存在になりかねないそんな一生徒。意識していなければ、僕はきっとNGPとともにこの昼休みを終えていただろう。
僕が特に凝視したのは彼女…ではなく、その手元だった。うつむく彼女の両手には、ひとつの端末機が握られていた。
大概のオタク人種って奴は、自分の興味のないことには、星の名前が付いたり、殺人事件の発端になるような、魚の名探偵が探すような時価数千万円の200カラットダイヤが目の前にあってもスルーするものだが、少しでも自分の興味がある物事には、戦闘力5以下のゴミでも笑顔で鑑定するものだ。
持ち方と姿勢からして携帯ゲーム機であることは間違いなかった。国民的の機種と言われる、
…いつの間にかジェットストリーム(三者三様)なゲームネタで自分自身を笑わせるのがアホらしくなりつつも、ひょっとして僕と同じNGPかも?と期待したのだが、彼女の持つ端末はそのどれにも該当しない機種だった。
確か僕の持つNGPとほぼ同時期に発売された携帯ゲーム機。白黒画面ながら、その性能と安価、電池消費量の少なさが話題のニューマシンだった。ゲーム雑誌やTVCMなどで注目を集めるとともに、新作ゲームも絶賛リリース中の人気機種。
正直、買おうかどうかは悩んだ機種だったのです。でも、当時このメーカーから発売されるゲーム機は『かならずこける地雷源』と方々から言われていた。僕自身も世間の情報、マニアを通ぶって信ずることがステータスと思っていたのだ。
僕はいつの間にか、ごく自然(のつもり)に彼女の側を屋上を散歩するふりをしながら通過していた。彼女のことなどはどうでもよい。僕はただ、WSがどのような物なのか、一瞬かつ脳裏にその遊戯性を焼き付けたかっただけなのだ(嘘です。女子に近づきたい気持ちもありましたとも)。
ここは日差しが照りつく屋上。彼女がどんなにゲームに集中していても、近づく影あればそれに気付く。否が応にも、近くに動く物体に目が行き、自然と二人の視線はリンクする。
確かにピタリと停止したはずと感じた、ほんの僅かな時間と空間の中。彼女の傍らに置かれた透明な炭酸飲料ボトルの気泡だけがゆらりと一瞬、上にと揺らぎ動いた。
◆
―――「あれから、もう17年近く経ったんだね」
その時の女子生徒であり、今の僕の妻であるその人は、小さく微笑みながら当時を思い出す。この物語を書く僕の側で、彼女との長話は繰り広げられる。
(つづく)
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