草原に生きる遊牧と戦の民、イゼカ族のもとに
近隣部族から書状を携えた使者がもたらされた。
「草原と境を接したアルヤ王国が草原の諸部族に
招撫の働き掛けを行っているが如何すべきか」と。
エザンは、かつてイゼカ族が戦を為していたころ、
最強の戦士として部族内外に勇名を轟かせていた。
平穏の続く現在となっては、彼を凌ぐ程の戦士は
イゼカ族の中に存在しないといえるかもしれない。
エザンはまた族長の信任も厚く、族長の子らにとって
第2の父であり、人生の師とも呼び得る存在だった。
ゆえに部族の存続を懸けて大国アルヤと対峙する今、
エザンは族長から最も気掛かりな次男坊を任される。
族長の次男坊ヤシェトは血気盛んな若者である。
しっかり者の長男坊と愛され上手の末っ子の間で、
荒ぶる己の気性と感情をうまく制御できないまま、
部族の中で爪弾きにされがちで、どうにも難しい。
ヤシェトを中心とする幾らかの問題がもとからあり、
そこへアルヤや周辺諸部族との関係性が絡んできて、
エザンはイゼカ族と己自身の在り方に問いを重ねる。
戦士として、年長者として、父として、如何に生きるか。
若い世代と親の世代との間で起こる葛藤が劇的に描かれ、
策略と行き違いの間で失われる多くの命に胸を抉られる。
エザンは、ヤシェトやその兄弟は幾つもの困難の果てに、
一体どんな結論を導き出し、どんな道をたどるのか。
草原の狼の血を引く戦士の気高く力強い生き様がここにある。
イゼカ族の戦士であるエザンを中心とした、壮大な歴史物語です。
騎馬民族と定住民族との軋轢。
小さな部族に押し迫る強大な新興国。
そこに生まれる「世代間格差」。
どれだけの資料を読み込んで書いたのかと嘆息するほど、その情景は細やかで、また設定がしっかりとして揺るぎません。
そしてなにより。
エザンが良い男なんですよ!
はげていようが、おっさんだろうが、なんて格好いいんだろう、と心が震えます。
年長者たるもの、こうであらねばなりません。
そして。
若輩者は、こういうおっさんに文句を言い、反抗しつつもついて行くものです。
エザンの生き様、エザンの考え方、エザンの行動様式。
そこには武士道を感じました。
最後に。
この作品は『第2回大人が読みたいエンタメ小説コンテスト』に応募されているとか。
コンテストでは、「最強のおっさん」を捜しているらしい。
であれば。
エザンをおいて誰がいるのですか、と私は問いたい。
本物の、「大人向け」の作品。
「第二回大人が読みたいエンタメ小説コンテスト」に応募中とのことで、この作品をどう扱うかで、カクヨムさんの想定する「大人」の定義が明らかになってしまうような、そんな作品です。
ストーリー構成から、会話や情景の描写などの細部にいたるまで、非常に完成度が高く、文章そのものだけで、独特の味わいがあります。
「書く人」として目指すべき水準が示されていると思います。
Web小説にありがちなご都合主義は一切なし。
受ける印象は人によって異なると思いますが、私は、心かき乱されました。
一般の小説や映画、漫画などを雑多に読んだり観たりしていますが、それらと比較しても、間違いなく今年一番印象に残る作品です。
まさかカクヨムで、最大限の賛辞を書くことになろうとは、思ってもみませんでした。
イゼカ族(架空の遊牧騎馬民族)一の戦士エザンが、族長の次男ヤシェトの教育を任されて11年。
成人してなお元気過ぎるヤシェトに頭を悩ませつつも、戦も過去のこととなった今、穏やかな日々を過ごしていた――。
真の戦士とは、すべての命を背に負って戦う者。
作中エザンはそう語りましたが、読み返し振り返ると、登場人物全員がその言葉に当て嵌まるのではないかと思いました。
エザンだけでなく、族長のタルハンはもちろん、エザンの息子アリムや、妻として母として戦う女性達。それぞれ異なった性質ながら、自分の道を模索する、ナズィロフとニルファル、そしてヤシェトの三兄弟。
イゼカ族の歴史が動こうとするなか、自身の考えをもって思索し、進もうとする彼らは、驚くくらい鮮烈でかっこよかったです。
葛藤する人々、巧みな心理描写、何よりかっこいいおっさん!
そういった言葉に惹かれる方は是非読んでみてください!
架空の遊牧騎馬民族を描いた興亡史です。
イゼカ族の一の戦士ヤエトは、現族長の次男の後見を任されていた。族長の三人の息子たち、それぞれの成長を見守る日々。ある日、南方の新興国アルヤから、使者が訪れる。イゼカ族に、軍人奴隷として傘下に入れと言うのだーー。
広大な草原で遊牧生活を送る少数部族の民俗が、丁寧に描かれていて、民俗好き、遊牧民好きにお薦めです。他民族との交易を行い、緩やかな支配を拡げる定住民国の文化との対比も見事です。何より、部族の未来をかけて葛藤を重ねるヤエトたちの思いが、少年たちの成長と生きざまが、胸を打ちます。
草原を馳せる馬蹄の音、その風の匂いを感じて下さい。
イゼカ族一の戦士エザンは、族長の次男ヤシェトの教育を託されている。
そのヤシェトも成人し、エザンたちから若者へ世代交代しつつある頃。
新興のアルヤ王国が使者を寄越し、支配下に入るよう告げてきた。
草原の騎馬民族を描いた架空歴史ものです。
温厚な長男ナズィロフや、年齢の割に聡明なニルファルに比べると、ヤシェトは血の気が多い。
違う時代ならばヤシェトの気性の激しさは、誇り高い戦士として有用かもしれない。
しかし、今までの常識が通用しない事態を前にして、無謀な行動は、一族の滅亡に繋がる可能性がある。
戦士として生き、自分に知恵はないと思っているエザンは、それでも思い悩む。
どうすることがイゼカの、ヤシェトのためになるのか。
三兄弟の性格の違いによる、それぞれの言い分。
族長の、部族全体を考えなければいけない立場と、父としての感情。
エザンも、族長及び族全体への忠誠と、ヤシェトの後見役としての思い、実子への愛情。
イゼカとアルヤ王国、既にアルヤに下った部族などの思惑が絡み合いながら、物語は進んでいきます。
そして、激動の果て。
戦士の中の戦士、エザンの生きざまを、どうぞご覧ください。
一気に読み進めたので興奮冷めやらないまま筆をとる。
最初は『蒼き太陽の詩』の舞台たるアルヤ王国の外側の世界、なにより遺伝子レベルで大好きな遊牧民が出てくる物語ということで興味がひかれページをめくった。文字を追ううちに時間を忘れた。激流にのみこまれ、気付けば遠浅の湖の岸辺にたっていたような感覚。
根本的に価値観の違う部族がひとつの王国のなかへ吸い込まれていく。世界史を紐解けばどこにでも散らばっている場面。けれど私は今までそれを字面で追うだけで分かったつもりでいたのだと痛感した。この作品は、そこに血肉を与えて私へ訴えかけてきた。心の奥、根幹を揺さぶるような衝撃を与えた。草原の戦士の誇り、アルヤ側の言い分、部族の小競り合い。感じ方、考え方、生き方のぶつかりあいをこれでもかと書ききった作者様に心からの敬意を示す。(160828)
話自体は大国に翻弄される小部族の混乱を描いた、小さな物語です。
しかし、主人公や、彼が後見する族長の息子などの内面の葛藤を、非常に奥深く鮮やかに描いています。
脳裏にありありと草原の部族を思い浮かべることの出来る細部までこだわった綿密なリアリティは、これに画がつけばなぁ、とため息を漏らさせるほどです。
自由。
自由とは何かを知る少年の奔馬のような心に、振り回されながらも憧れます。
ラストの主人公の決断は、きっとそうだろう、と納得のいくものでした。
最初のうちは、登場人物たちの名前がとっつきにくく、覚えにくいかも知れません。しかし、読んでいくうちに慣れます。
それから、日本人じゃないのに「ござる」言葉を使う話が自分はとても好みなので、その点でも好きでした。
昔の漫画なんて欧州の騎士も「ござる」って言ってましたし。
敬語萌えなので全編品のいい敬語が読めて満足でした。