序盤の数話を読んだ貴方はまず、このタイトルみたいな印象を受けるだろう。
闇夜を駆け抜け、神出鬼没。年齢も正体も分からず正義の味方でもない。邪神の元、己が信念の元、神話生物をぶちのめす。
多くの謎を持ちつつウィットに富んだジョークも言う彼は、ダークヒーローの中でも格別魅力的だ。
洋画の様にクールで爽快。
人に熱く震える決意をもたらして。
セピアがかった写真の様に時代が映り込み。
人々の感情が渦巻き、時に為す術も無く悲しみに飲み込まれていく。
この物語ではこうやって、多くの人間が彼を語る。
その一言一言の片鱗が、我々にウィップアーウィルを伝えてくる。
それは地球の、歴史の片鱗であり彼の生きてきた片鱗だ。
こんなの、心揺さぶられる物語だって決まってるじゃないか。
読み進めれば進む程、その片鱗は貴方の中に夜鷹をつくる。
夜鷹の現れるさまが、彼の姿がその技が、脳裏に浮かぶ。
そうなった貴方の心臓は、既に鋭い鉤爪に囚われているだろう。
最後の一文字まで読んだ貴方の元に、彼はきっと現れる。
その時聞いてくれ。
なぁ、夜鷹の鳴き声は聞こえるか?
ーー夜鷹の鳴き声は聞こえるか。
クセになるワンフレーズとともに、現れる黒い男と、禁酒法が施行されていた時代の古き良きアメリカ、そしてその陰に潜むものたちから始まる物語。
それらが緻密な描写によって、脳裏に描かれ、筆者の書く世界観にのめり込んで行くのが心地よい作品です。
クトゥルフはもちろん、昔の荒っぽくてクールなアメリカやセイラムの魔女、そして我らが現代日本まで、様々な国や時代で活躍する夜鷹の姿に胸が躍ります。
クトゥルフが好きな人に、そして、読んだことはなくとも、ヒロイックな活劇が好きな人にも、ぜひオススメしたい。
クトゥルーの事は深く存じませんが、作者が燃えるハートとクールな頭脳を、缶詰ではなく強靱で繊細なボディに納めたナイスガイであろうことは、作品を読めば一目瞭然。
この作品を象徴するのは仮面のヒーロー ウイップアーウイル!
夜鷹が現れるところ、風雲急を告げ特大級のヴァイオレンスの嵐が巻き起こり、邪神だろうが、宇宙昆虫だろうが、人造人間だろうが、缶詰であろうが、夜鷹の放つ一撃必倒のニッポンのバリツは無敵!無敵は素敵だぜ、ウイップさん♪
時代を超え、場所を超え、おどろおどろしき毒島ワールドにテンポよく展開する物語の構成に唸り、無駄をこそぎ落とした冴え渡るアクション描写の爽快感に漬りましょう。
"毒島ナイスガイシリーズ”の第一作 仮面の夜鷹の邪神事件簿
お前には夜鷹の鳴き声が聞こえるか?
ミテクダサイ
TRPGからクトゥルー神話の存在を知り、H.P.ラヴクラフトの原作に手を出した人は多いでしょう。私もその一人です。
しかしラヴクラフト、非常に読みにくい。難解な英語を日本語訳したものなので二重苦です。私、斜め読みには自信があったのですけれども、「インスマウスの影」を読み切るまでに一時間以上かけました。「闇に囁くもの」は途中で飽きて放り出したレベル。
そんな有様ではありましたが、ラヴクラフトの著作に流れる独特の空気感というのは感じました。いつかもう一度読みたいと思っていました。
そんな所にこの作品を知りました。そして思いました。ラヴクラフトだ! 日本のサブカルチャーで書かれたラヴクラフトがいる!
ラヴクラフトの作品に流れる空気感を継承しつつ、文章はとても読みやすく。神話的存在をぶちのめすカッコイイヒーローも登場する。
ラヴクラフトを投げたクトゥルーファンこそ読んでほしい作品です。そしてラヴクラフトに再挑戦するのです。
いあ! いあ!
この作品の魅力を書くとしたらなんだろう。
分かりやすい文章? クトゥルフを知らない人にも親切な構成? それとも最高にクールなヒーロー?
この作品だったらいずれも楽しむことができる。
でもあえて一つ挙げろと言われたら、私はこの作品の第一話が日本語で書かれたとびきり上等なジャズ・エイジだという一点でオススメするだろう。
退廃、混沌、繁栄、悲惨極まりない第二次世界大戦の直前に一瞬だけ訪れた黄金の夢。ジャズ・エイジ。
その輝きをあますところなく描写した作品はクトゥルフの原点であるにも関わらず、日本の創作では実に貴重なのである。
神話生物から漂う汚穢、恐怖、未知、それらの多くがこの黄金の時代の想像力を元にしているにも関わらずだ。
ともかく第一話を見て欲しい。第一話を見てしまえば貴方もきっと引き返せなくなる筈だ。
実際の所、ジャズ・エイジ以外にも1950年代アメリカ、現代アメリカ、現代日本を舞台にしている(その上いずれの描写も素晴らしい!)のでクトゥルフを知らない人でもクトゥルフを知る切っ掛けになる作品にもなる。
だがそれらの魅力に関しては他のレビューに任せることとする。ともかくこの第一話、それと個人的に大好きなニャルラトホテプが活躍する第六話と猫の可愛い第十三話を是非楽しんで欲しい。
でもそうなると若き怪物の肖像編を勧めずに入られないしええいともかく全部読めってことになるのである。全部読め。
一言で表すなら躍動感。
クトゥルフ神話の中にアメコミのような要素に、それ以上に感じたいろんな時代特有の人間模様とその背景。
そして魅力があふれんばかりの『夜鷹』というキャラクター。
まず感じたのは衝撃そのもの。
冒頭からの夜鷹の登場から既にかっこよかった!
こんなにもドキドキとワクワクが膨らむとは……!
他にも色々ありますが、最初からこんなに惹きつけるとは思わなかったというのが正直な感想です。
それにホラーというだけではなく、バトル要素も入っているという点でも非常に素晴らしい。
クトゥルフ初心者でも楽しめる作品なのでぜひ堪能してみては?
世界中に根強いファン、いやもとい信者を多数擁する暗黒神話ことクトゥルフ。
だがそれらが内包する神々、体系、各地に伝わるエピソードはあまりにも厖大だ。
この作品の主人公ウィップ・アーウィルはその神話の新参者ではなく、はるか昔から『在った』ジグソーパズルの1ピースであるかのように描かれている。
そこに作者の力量のみならず腐心したさまが伝わってくる。
クトゥルフ初心者に対しては無味乾燥な箇条書きではなく、ストーリーを通じて押しつけがましくなく読み解かせてくれる。
ウィップ一流のユーモア、ジョークを端的に示すようなルビの振り方に、古参の邪神ファンもニヤリとさせられる、はず。