ワータイガーの“哀”に溢れた復讐劇。

この作品は長編の醍醐味を生かし尽くした名作だと思った。中盤から終盤にかけても読みながら思っていたが、読了後、頭に浮かんだ率直な感想がこれ。
私が思う長編の醍醐味と言うのは読み進めれば読み進める程作品の味が染み出してき、ドキドキが止まらなくなる、この点だ。この作品は私にとってスマッシュヒットだった。
シリアス、ダークなスピード感のあるストーリーであるのに尚且つ、人間ドラマがしっかり存在している物語が好みである方にはぜひ読んで欲しい。冒頭のような感想が読了後、脳内に浮かぶのではないだろうか。

人外と言う種族の中でも稀少なワータイガーである少年、テュラン。彼は信じていたある人に裏切られ、そして人間達に虐げられた末、仲間である人外を率い“人間サマ”への復讐を始める。人間達の息の根をを躊躇なく次々と止めアルジェントを崩壊へ導こうとして行くその様は、残虐性と惨殺性の高い巧みな描写で吐き気がする程生々しく描かれている。血の香が鼻の奥まで入り込んでくるようなリアルな戦闘シーンが山程盛り込まれている点もこのストーリーの強い魅力だ。

描かれているドラマの中で感じた事は一度失った信用はそう簡単には取り戻せないと言う事。人間だろうが人外だろうが、そこに関して感情の線は共通している辺りが非常に苦悶で胸に込み上げるものがあった。

中盤に向かう程、テュランに絡まる個性の強いキャラクターが順々に登場する。その中でも特に印象深いのはジェズアルドだ。彼は吸血鬼なのだが、彼から滲み出す闇のオーラは堪らない。読んでいて私はある意味このキャラに裏切られすぎて驚き心臓が縮んだ。彼が登場し、発する言葉、そして起こす行動には背筋が舐められるような感覚に襲われた。続編の二段目はこの彼が主役になるようなので、これから読んで行くのが楽しみである。

終盤からラストの盛り上がりは止まらずに一気に読んで頂きたい。面白すぎて感情の昂りが止まらなくなるのだ。テュランの復讐劇に沿って描き尽くされた群像劇、一文字で表すなら私は“哀”だと感じた。人間サマを憎み、恨み、殺し尽す事を遂行するテュランの姿は本当に哀しかった。ただこの物語を最後まで読み切ったその時、あなたは深い“愛”を感じるだろう。読了後プロローグから一章、終盤を再度読み返し、私は涙した。

この作品のタイトルはTyrann。この物語の哀すべき主役、ワータイガーの少年の名。胸に刻み込まれるように残るこの名はこの作品に最も相応しい名だとそう感じた。この作品を好きだと言う人が増えたらこの上なく幸せだ。

と、いつものレビューとはちょっと違った口調で書いてみたら長くなりすぎてしまいました。私は作者である風嵐さんの作品が凄く好みにハマるのでいくつか交えつつ(笑)読ませて頂いているのですが、その中で今、Tyrannが断トツです。そう感じた程の良作なのでぜひ皆様も読んでみてください(*´꒳`*)

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