軍事帝国アルジェントの首都を突如、テロリストの集団が襲った。
テロリストは全員が「人外」で、「人間」への憎しみもあらわに、
無差別的で残虐な殺戮を行い、首都の機能を次々と奪っていく。
人間への復讐を目的に掲げる人外たちは、交渉にも碌に応じない。
テロリストの首謀者は人虎《ワータイガー》の青年テュラン。
彼は人間たちによる研究所で実験動物として虐げられて育った。
1度だけ、慕っていた「おねえちゃん」とともに脱走を試みたが、
足手まといになって裏切られ、それが彼の心に影を落としている。
テュランの相棒あるいは参謀、吸血鬼のジェズアルドは長命で、
彼の経歴は伝説として語られるほどに古く、腹の内が読めない。
テュランをサポートするようでいて、実際何を考えているのか、
彼と「真祖」を巡る因縁とは一体何なのか、謎だらけだ。
人外と人間が混在する世界観から連想し、短絡的ながら、
『テイルズ・オブ・リバース』風のヴィジュアルを思い描いた。
テイルズシリーズは好きで、けっこうプレイしているのだが、
『Tyrann』からも似た空気を感じ取り、好みの作風だと思った。
文明水準は中世ヨーロッパではなく、銃火器が普及し、
病院、通信設備、学校など近代都市の設備が存在する。
殺伐としてシビアな背景と設定を持つキャラクターたちだが、
時にままごとのような掛け合いを繰り広げたりもする。
そういった点をテイルズシリーズっぽいと感じたわけだが、
戦闘は、ぼんっと消滅させて経験値とガルドにして終わり、
というお気楽なものではなく、リアルなテロの様相を呈する。
人外は人間を嬲り殺し、歴史ある軍事帝国を急速に追い詰める。
この作品は「復讐」シリーズと位置付けてある。
復讐者であるテュランは憎悪に囚われている。
彼は憎悪し、嫌悪するから、敵対する人間を殺す。
楽しむためにも殺し、飽きたから殺すこともある。
人を殺したいほどに憎悪したことがあるかと問われれば、
私はイエスなのだが、むろん実際に殺せたはずもない。
法で禁じられているから殺さなかったわけではなく、
「殺したい」と「殺す」の間には越え難い境界がある。
戦を描いた小説を書いたとき、延々と自問自答した。
「殺すべき相手を、自分は本当に憎んでいるのか」
「斬捨て御免の特権があるだけで、平気で斬れるか」
「憎い相手であれば、自分は迷いなく殺せるのか」
私の答えは全てノーだった。
「殺す」ことはとても重い。
けれど、0と1の比較だから重いのではないかとも思う。
0と1の間の境界を越えれば、2以上ならば、あるいは。
テュランはいつ、0から1へと越えてしまったのか。
越えて当然だったと、彼は強がって言い張るだろう。
「おねえちゃん」に裏切られた記憶に苦しみ、眠れば魘され、
心の傷を克服できず、重いファントムペインに苛まれるくせに。
この物語に、いわゆる正義は存在しない。
人の歴史なんてそんなもんだろうと思う。
エゴとエゴのぶつかり合いのほかに、
国を丸ごと塗り替える原動力はあり得ない。
復讐、憎悪、暴力と名付け得るテュランのエゴには、
過去と現在しか存在せず、未来など必要とされない。
破滅的で刹那的な彼の言動は異様な魅力を放って、
作中の人物のみならず読者を惹き付けてやまない。
物語の結末がどんな形でいつ到来するのか、
誰の想いが結実し、誰がその身を滅ぼすのか。
緊迫感に、スクロールする手が止まらなかった。
そして、無惨なラストは訪れるべくして訪れる。
結局、それが見たかったんだ。
0から1へと越えた者の末路が
生易しくていいはずはないから。
ああ本物だな、と虚しくなった。
この作品は長編の醍醐味を生かし尽くした名作だと思った。中盤から終盤にかけても読みながら思っていたが、読了後、頭に浮かんだ率直な感想がこれ。
私が思う長編の醍醐味と言うのは読み進めれば読み進める程作品の味が染み出してき、ドキドキが止まらなくなる、この点だ。この作品は私にとってスマッシュヒットだった。
シリアス、ダークなスピード感のあるストーリーであるのに尚且つ、人間ドラマがしっかり存在している物語が好みである方にはぜひ読んで欲しい。冒頭のような感想が読了後、脳内に浮かぶのではないだろうか。
人外と言う種族の中でも稀少なワータイガーである少年、テュラン。彼は信じていたある人に裏切られ、そして人間達に虐げられた末、仲間である人外を率い“人間サマ”への復讐を始める。人間達の息の根をを躊躇なく次々と止めアルジェントを崩壊へ導こうとして行くその様は、残虐性と惨殺性の高い巧みな描写で吐き気がする程生々しく描かれている。血の香が鼻の奥まで入り込んでくるようなリアルな戦闘シーンが山程盛り込まれている点もこのストーリーの強い魅力だ。
描かれているドラマの中で感じた事は一度失った信用はそう簡単には取り戻せないと言う事。人間だろうが人外だろうが、そこに関して感情の線は共通している辺りが非常に苦悶で胸に込み上げるものがあった。
中盤に向かう程、テュランに絡まる個性の強いキャラクターが順々に登場する。その中でも特に印象深いのはジェズアルドだ。彼は吸血鬼なのだが、彼から滲み出す闇のオーラは堪らない。読んでいて私はある意味このキャラに裏切られすぎて驚き心臓が縮んだ。彼が登場し、発する言葉、そして起こす行動には背筋が舐められるような感覚に襲われた。続編の二段目はこの彼が主役になるようなので、これから読んで行くのが楽しみである。
終盤からラストの盛り上がりは止まらずに一気に読んで頂きたい。面白すぎて感情の昂りが止まらなくなるのだ。テュランの復讐劇に沿って描き尽くされた群像劇、一文字で表すなら私は“哀”だと感じた。人間サマを憎み、恨み、殺し尽す事を遂行するテュランの姿は本当に哀しかった。ただこの物語を最後まで読み切ったその時、あなたは深い“愛”を感じるだろう。読了後プロローグから一章、終盤を再度読み返し、私は涙した。
この作品のタイトルはTyrann。この物語の哀すべき主役、ワータイガーの少年の名。胸に刻み込まれるように残るこの名はこの作品に最も相応しい名だとそう感じた。この作品を好きだと言う人が増えたらこの上なく幸せだ。
と、いつものレビューとはちょっと違った口調で書いてみたら長くなりすぎてしまいました。私は作者である風嵐さんの作品が凄く好みにハマるのでいくつか交えつつ(笑)読ませて頂いているのですが、その中で今、Tyrannが断トツです。そう感じた程の良作なのでぜひ皆様も読んでみてください(*´꒳`*)
もしもファンタジー世界に登場する亜人種が実在したとしたら、果たして人類は彼らと共存できるか?
本作は、上記のIFを描いた作品です。
ファンタジー世界に登場する亜人種は、女騎士とオークの「くっ殺!」を頂点にネタ的な意味でコミカルです。
彼らと楽しくわいわいと過ごせる世界、とても素敵だと思います。
しかし、実際に彼ら亜人種がいたらどうでしょう?
人間とは異なる文化と思想を持ち、知能も体力も種族ごとに様々で、人間の血液や人肉を好む種もあり、人間と容易に交接して混血種を生み出す。
おそらくロクなことにならないでしょう。
21世紀の地球でも同じ人間同士で争いまくっているのに、別の種族と共存なんぞ夢物語。
諸説はありますが我々のご先祖様が近縁種であるネアンデルタール人と共存を選ばず絶滅するまで追い込んで世界に繁栄したように、自分らとは異なる狼男やオークや吸血鬼をあらゆる方法で滅ぼそうとしたり、奴隷や家畜として管理下に置こうとするはずです。
本作の世界観では、亜人種が迫害や差別の対象となっています。
そんな彼らが人類に報復を開始する……というのが、本作の冒頭部分のあらすじになります。
はたして、人類と亜人種は共存できるのか?
この質問の答えが気になるあなたは、硬派な作風でバイオレンスな描写が多めの本作を読んでみるといいかもしれません。