近代的で親しみやすいファンタジー世界で描かれる、少女の細やかな心の機微

空間の歪みを固定した【壁】に守られ、魔女の力と、魔法道具による近代化で繁栄する学問の国、エスメラルダ。見習いから正式な魔女になるため、試験を受けるマリアラはかつての友人と再会する……。
少女小説、のタグ通り、主人公たちの心理描写や友情に重きを置いたファンタジー小説。昔よく読んだコバルト文庫などを思い出し、懐かしい気持ちになりました。
本編は途中から恐ろしい敵が現れ、そいつとの対決で慌ただしいことになりましたが、番外編ではプロローグの続きのような、魔女になったマリエラが遭遇する悲しい出来事などもあり……。なるほど、左巻きにはこうした災難がつきまとうのだな、と納得。
ただ、コンピューターが政府を取り仕切っているようだったり、ビルが立ち並びと舞台は中々近代的で(動力は魔力だそうですが)、登場人物の名前は横文字だけど、「おでん」「おろし定食」といった和食も普通に出てくるので、「ハイファンタジー」と言うほど、がっちりハイファンタジーとは言いがたい印象の世界観でした。
マリエラとリン、どちらも華があって、輝かしい資質を持っているのに、本人たちはそれに気付いてない姿は、もどかしく、いじらしく、若いなあと眩しいものを見る気持ちになります。
狩人(リンが突然彼をフルネームで呼んでいましたが、名乗ったりする場面はなかったような……)があの後どうなったのか、彼が語るようなエスメラルダの姿とは、などなど、お話は一段落したけれど、気になる要素もまだまだたくさん。続編を読むのが楽しみです!

気になるのが、専門用語の説明のされなさ。本編の敵である「狩人」は、かなり終盤まで魔女を殺したいのか捕まえたいのか、目的すら判然としません。四章(4)でようやく、狩人の詳しい説明が出てくるのですが、こうした概要が分からないまま本筋が進んでしまうので、長い間「なんだか魔女を狙う危険ななにか」というふわっとした理解でしか読めませんでした。
魔女(男の魔女も出てくるけれど、そちらはなんと呼ぶのか不明)には「左巻き」と「右巻き」という二種類のタイプがいるようですが、なぜそう呼ばれるのか、どういうものなのかも曖昧で、もったいないなあと思います。
説明のしすぎで世界観の雰囲気を壊すのは心配かもしれませんし、このへんはある程度好みがあるとは思いますが、「狩人」のように、本筋の状況を理解するのに必要な情報だけは出していただけるとありがたいです。
「ダが取れた!」の部分も、見習い卒業の意味だと文脈から把握できるのですが、それまでダ=見習いにつく名前、という説明は一切無かったと思うので、これもまた惜しい……。
(また、これは非常に個人的な好みなのですが、一度どこかに世界観解説をまとめて記事などがあると私的に嬉しいです)

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