第29話 あとがき

 僕が小学校に上がる前の将来の夢は「ウルトラマン」でした。

 親が保存していた幼稚園の頃の「将来の夢」というポップにそう書いてあったわけですが、なぜ僕は将来ウルトラマンに成りたかったのでしょうか。

 強いから? 正義だから?

 違う。


 そうして数年後、僕の小学校六年生の時の将来の夢は「サラリーマン」でした。

 これを見た親からは「つまんないこと言うな」「寂しいこと言うな」と言われました。


 子供の多くは「みんなが持っている物」を欲しがりますね。なぜでしょうか。

 持っていないとみんなについていけないから?

 違う。


 人間はみんなと同じことが出来ないといけないし、みんなと同じじゃないといけないからです・

 僕たちヒトは数万年前までは沢山の種類がいましたが、現在はホモ・サピエンスだけです。

 ネアンデルターレンシスもフローレシエンシスももういません。

 僕たちサピエンスだけが勝ち残ったからです。

 どうやって?

 それは「集団」を発明したからです。

 我々ホモ・サピエンスにとって「集団」は発明であり、生存戦略でした。

 それはこの地球上でトップの存在になった現在でも変わらない。我々は集団社会を作りたがる。正しい唯一の社会を作りたい。それ以外は壊したい。


 正しい存在が一つしかない、あるいはとても狭い場合、そこに入れない、そこからはみ出す人はどうすればいいですか?

 みんなと違うその人が悪いですか?

 みんなと同じになる努力が足りないその人が悪いですか?

 みんなと同じになれない人は怠け者ですか?


 僕が子供の頃、ウルトラマンに成りたかった理由もサラリーマンに成りたかった理由もきっと同じでした。


 十歳の彼らの旅はきっと始まったばかりで、その旅はおそらく自分に対する否定と肯定です。

 普通でなくてはならない僕たちは、普通をどう手に入れればいいのか。

 多くの人はその「普通」を身に着ける才能を持っている。

 でも恐ろしくそれが下手な人もいる。

 僕たちはそんな中で今日もまだ生きています。


 深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ


結城悠木


境界線上の二律背反 - 壱 - 三毛猫の謎


原案:2019年





※ 全てフィクションです

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境界線上の二律背反~壱~ 三毛猫の謎 結城悠木 @yukiyuki_

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