第7話 大団円

「じゃあ、どうしてそれを今になっていうんですか? これからまだ裁判があるのに、あなたは、別に何もいわなければ、あなたの計画通りに、ことは運んで、無罪でいられたのに」

 と樋口刑事がいうと、

「私は別にこの事件を、私は犯人ではないような偽装工作を最初からいようなんて思っていないんですよ。むしろ、弟が犯人と疑われるのであれば、私が罪に問われても関係ないというくらいには感じていました」

 という。

「じゃあ、どうして?」

 というので、

「だったら、弟のところに行ってみなさいよ」

 と言われたので、確認してみると、

「たった今、弟さんの死体が発見された」

 ということだった、

 彼女は、にんまりとした。

「まさか、君が殺したのかい?」

 と言われたので、

「そんなことはしないよ。あれは、自殺なんですよ」

 というではないか。

「それでは、君の思った通りになったということか?」

 と秋元刑事が聞くので、

「いえ、そんなことは思いません」

 といって、相変わらずの力強い口調であった。

 その雰囲気は、まるで、

「勝ち誇ったかのようで、それこそ、警察に対して喧嘩を売って、それに勝利した」

 と言わんばかりではないか。

「どうにも分からんな」

 と樋口刑事は、頭を抱えていたが、秋元刑事は、頭をフル回転させ。

「ひょっとすると、弟が、犯行動機を自分でも曖昧だ と思っていただけでなく、君も、曖昧に考えていたんじゃないか?」

 というと、またにんまりとして。

「分かったようなことをいうじゃない」

 と、不敵な笑みを浮かべた。

「やっぱりそうか、君は、弟と被害者から、同時に何か脅されていたんじゃないか? そしてどちらかを殺しどちらかに罪を着せようと考えた。しかし、どっちにかを決めかねていた時、弟から、兄の殺害計画を打ち明けられ、それを受け入れないとすれば、お前が兄を殺そうとしていると俺がチクってやるとでも言われたんじゃないですか?」

 という。

 彼女は黙って聞いていた。

「なるほど、そう考えると、分からなくもない。あなたが、弟の計画に乗りながら、自分でも、この機会に、二人からの脅迫を一層しようと思ったわけだね。そして、弟に、すべてを自分がかぶる方が、犯人としての決定的なことはない。そのかわり、あなたには、スズランの花を配達してもらうと言ったんじゃないですかね? だから、スズランの花を持ってきたのを知っているのは、あなたと被害者だけ、だから、被害者は、あそこに水があることを分かっていた」

 と樋口刑事は言った。

「でも、そう簡単に水があるのをあの苦しい状態で判断できましたね」

 というと、

「私がそそのかしたのよ」

 というではないか。

「えっ、首を絞めたあなたのいうことを聞いたんですか?」

「ええ、そうよ、だって、本当に苦しんでいれば、首を絞めた相手だと思っても、水を飲みに行くわよね。それに死んでしまう人なんだから、証拠は残らない。もし、水を飲みにいかなかったとして、彼が別の方法で助かったとしても、彼は警察に言ったりはしないわ」

 と女は言った。

「どうして?」

「だっていってしまえば自分が脅迫していることがばれてしまうでしょう? そうなると、兄弟の仲もさらに最悪になり、さらに事態が悪くなる」

 と彼女は言った。

「なるほど、これほど、周到に考えられたことですね?」

 と秋元刑事は言った。

「ところで、弟さんが自殺をしたということですか? だとすれと、よくあなたに分かりましたね」

 というので、

「ええ、自殺するように仕向けたんですよ。私が警察にすべてをいえばあなたは終わりということをね」

「それだけで自殺するものない?」

 というと、

「ええ、それだけ彼は私に対してひどいことをしたということなのよ。そして、兄の方もね。結局は、あの二人は死なないといけない二人だったのよ」

 といって、怪しく笑う。

 彼女の話をそれから少し聞いていた。

 実際に、あの兄弟が彼女に対して行ったことが、まるで因縁と言わんばかりであり、それが、実際に、

「兄弟の因縁」

 ということでもあったのだ。

 事件は、これをもって解決した。

 実際の、捜査本部も解散するということに決まり、結局、

「兄は殺害」

 「弟は自殺」

「女は犯人」

 ということでそれぞれ、罪に復すことになる。

 だが、三人の刑事の思いは、

「まだ解決していなかった」

 というのは、

「この三人の中で、すべてが、損をした:

 ということで、

「これを警察が解決した」

 ということであれば、何ら問題はないのだが、結果としては、

「犯人の自白」

 あるいは、

「自首」

 という形で解決したのだ。

「皆がすべて、痛み分けということで事件が解決したとしか思えない」

 というのが、樋口刑事の考えであり、

「実は私は結構前から、なんとなくわかっていたような気がするんですよ」

 と秋元刑事は言ったが、それはあくまでも、苦虫をかみつぶしたかのような印象でしかなかったのだ。

 ただ、事件が解明されるうちに、次第に分かってきたことがあったのだが、それは、彼女が、

「腹違いの兄弟だった」

 ということで。彼女としては、

「兄弟と契りを結んで、しかも、兄弟がそれぞれに相手を殺そうとしているところの手伝いをさせられた」

 ということで、かなり、まじめに悩んでいたということであった。

 ある意味、そういう意味では、

「一番気の毒だったのは、彼女ではないか?」

 ということで、

「後の二人は、真実を知らずに死んでいったのは、せめてもの、彼女の慰みではないだろうか?」

「そういう意味では、彼女って、天使なのではないだろうか?」

 と、三人は、

「裏捜査会議」

 の中で、それぞれに感じたのだった。


                 (  完  )

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最後の天使 森本 晃次 @kakku

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