日常の風景を切り取る写真。その中に、説明のつかない「何か」が映り込んだとき、あなたはどう感じるだろうか。本作は、淡々とした穏やかな語り口の中に、哀しさと美しさを同時にたたえた怪談である。恐怖を前面に押し出すのではなく、読み進めるほどに、そこに現れる存在はただの怪異ではなくどこか愛らしく、哀しく、そして美しいものとして浮かび上がってくる。ページを閉じた後も、その姿は心に残り続けるだろう。叙情的な余韻を味わいたい方に、ぜひ読んでいただきたい一編である。
写真を撮るのが趣味だった。野原の草花や何気ない風景を、フレームの中に色鮮やかに残す。 あれは、春の頃。ざわざわとした桜の花の、花弁の舞い散る木下で。地面の花びらを踏みしだく黒い翳嬉々として花の中に遊ぶその翳りには心当たりがあった。 それから、何度か草花を写す。現像ミスやブレなどではない。翳は いつの間にか写真の中に映り込む。きっと、忘れて欲しくないのだろうか。 それとも、ただ気まぐれにこの世の春に紛れて。 公園の噴水の周りで 遊ぶ子供達の笑顔の中にも翳は、 入り込んでいる。 楽しそうに。…続きを読む
この世のものでない者を写してしまう主人公の話です。その印画紙に残る存在は、とても自然に振る舞います。あまつさえ人にちょっとした楽しみを与えたりします。心霊写真に見られる禍々しさとは無縁な印象なのです。世の理を外れたものが、世に溶け込んで在る。奇異であり、和やか。相反する状況をさらりと描いた作品です。なんとも軽やかな読後感が漂うのです。多くの方に眺めていただきたい軽妙な世界です。お勧めします。
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