第40話 レナード・コーエンは偉大
娘が今朝いきなり、
「ママ、どうしよう…。今日友達の誕生日なのに、彼女の犬が亡くなったんだって。なんて言っていいか分からない…。」
日曜日だというのに決算の月で忙しい夫は仕事の手を休めて振り返った。朝のコーヒーを飲みながら、私自身のことなら何とか対処出来なくはないが、娘とその友達の関係などよく分からない。情報が足りないので、話を掘り下げて聞くことにした。
その子はソフィアという名前の東欧からの移民二世らしい。一人っ子な上、両親はどちらも多忙で、夕方留守が多い典型的な鍵っ子だという。だからその犬と兄弟の様にして育ったので、かなりショックらしいと娘は言った。
ラブラドルは十歳だったので、高齢ではある。文章を書くのが嫌いな夫は困った顔をするだけで、上手い文句など出て来ない様子。私は日本語ならともかく、こちらの言葉で普通なら何というべきか思いつかなかったので、AIで調べたら?と言った言い方が悪かったらしく、夫と娘が一斉に、
「それって、ひどくない?」
と非難の眼差しで私を見た。
「そこまでAIに頼る?宿題をやるのとは違うだろう。」
と、コピペをすることしか考えていないクリエイティブでない輩(夫)はこう批判するが、私はそこからアイディアを得て自分の言葉でお悔やみを考えろと言いたかった。AIの使い方、依存の仕方には個人差があるとつくづく感じた。
その話を聞いていた次男が何気に、レナード・コーエン氏の有名な歌を歌い始めた。
「Everybody got this broken feeling
Like their father or their dog just died」
「誰もが、父親や愛犬が亡くなったような
悲痛な気持ちを抱えている」
ああ、そんな歌があったな、とコーエン氏の大ファンである夫は皮肉とも取らずに懐かしがった。私は飼い犬と父親が同列だというのは意味深だなと引っかかったが、若くして父親を亡くした詩人と鍵っ子のソフィアとが妙に重ならなくもない。
娘は意地でもAIには頼らずに自力で以下のような内容に近いものを書いたらしい。その後亡くなった時のラブラドルの写真が送られて来たのを見るかと訊くので、絶対に嫌だと断っておいた。私に言わせると、お悔やみをAIで調べるよりも、その写真を見られる神経の方が疑われるのだが、娘は眠っているみたいだというだけだった。
以下、AIの提案。
「ワンちゃんのこと、本当に心からお悔やみ申し上げます。どれほど大切な存在だったかよく分かるし、あなたのことも心配しています。」
誕生日と悲しみの両方に触れるなら:
「今日は誕生日だよね。こんな形になってしまって本当に辛いと思う。話したくなったら、私はここにいるよ。」
何と言えばいいか分からないとき:
「正直、何と言えばいいのか分からないけれど、心配していることだけは伝えたかった。」
(これは本当に、とても心に響く言葉です。)
さらに温かく伝えたいなら:
「あなたのワンちゃんは、10年間あなたと一緒にいられて本当に幸せだったと思う。」
作り笑いで誤魔化した方がいい時もある 北野美奈子 @MinakoK
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