晩夏

 祭壇へ続く道には松明の灯り。

 多くの村人が待ち構えていた。

 其の中にはクラスメイトも居り、クラスメイトは皆、蛇のようにのたうちながらシャアシャア鳴いていた。

 其の光景に、ぼくはに問う。

 は珍しく即答した。

 心配はいらない、祭壇へと急ぐが良い、と。

 羽那子はなこの父は独り言ちるぼくに怪訝な表情をしつつも、迂回ルートを探る。

 其の結果、バイクを乗り捨てて林を抜けて向かうのが最適解と導き出した。

 夜の林を手と記憶探りで歩むのは大変だ。

 だが、ぼくは自然と共に遊んで来ただけあり、祭壇へと到達することは容易であった。

 ぼくが儀式上の細工を元に戻していると、司祭がやってきた。

 彼は淡々とぼくに説明する。

 所謂いわゆる魂移たまうつしの儀式なのだそう。

 ぼくの中に宿る神の心をぼくという器に完全に馴染ませ、ぼくという人格を放逐する。そういう説明がされていた。

 ぼくは其の時、の正体に思い当たる事があった。

 は……。

 の正体は……。

 ぼくがを心で視る。

 其の姿は、何度もぼくを脅かしてきた化け物其の者であった。

 司祭が言うには、ぼくは元々神の器……すなは形代かたしろとしての適正が高かったらしく、羽那子はなこと仲良くしていた時に生まれた心の隙に付け込まれ、憑かれてしまった。

 羽那子はなこにえとし、完全な儀式を行おうとしたが、其の前にぼくは家族に連れられ逃げ出したのだそう。

 だが、其の時に既に両親の精神にも影響を与えていたのだそう。

 其れから、ぼくの中に住み着いた神はぼくを乗っ取る機会を虎視眈々こしたんたんと狙っていたのだろう。

 祭壇の細工を戻していると、鉈や角材を持った両親が襲いかかってきた。

 羽那子はなこの父がぼくを庇う。

 其の間に、司祭のような男が呪文を唱え始める。

 ぼくは混乱する。

 全ての出来事がぼくの見てきた物と全く違う。否、全てはぼくが原因だったのだ。

 ぼくの精神は徐々に崩れ始める。

 そして、其の穴に、得体の知れない何かが入り込んでくる。

 司祭が呪文を唱え終わると雨と雷が降り、光に包まれる。

 閃光と雷轟らいごうが五感をつんざき、空間認識を揺らがせた。

 ぼくは天地を見失い、混迷と空白の世界を彷徨い歩く。

 仮初かりそめからだは此処か。ぼくの中の中の中の中の中の中の中の中からその様な聲が何度も復唱される。

 呻吟しんげんと吐血に苦しみ、淵源えんげんの世へ誘われんとするぼくは、喪神そしんにも似た感覚との戦いを常夜とこよで行っていた。

 視界に映らぬ殺陣たて

 其の後が如何どうなったのかぼくには分からない。

 だが、ぼくは都会で平和に過ごしていた。

 しかし、其れは心が軟禁された状態で。

 あの村は如何どうなったのだろうと、想いを馳せる。

 ぼくの身体はぼくの考えとは違った方向へと動き続けた。オートマティスムのような、トランス状態のような、サードパーソンのような状態に陥りながらも、ぼくは前を見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

形代の夏 冬見 @fuyumi283

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ