《エピローグ》愛と涙のセレナーデ
ひとしきり泣いたあと……わたしは日高くんから離れた。
ワイシャツの肩周りが涙でぬれて、謝ったら「気にしないで」って微笑んでくれた。
「――そうだ。人魚姫の病が完治したお祝いに、ドリゴのセレナーデを演奏するよ」
目尻にたまった涙をハンカチでぬぐいながら、わたしはふっと笑った。
「セレナーデって愛の曲なんでしょ?」
「あ――曲の意味、知ってたんだ。うん、そう。前に演奏した時……あの時も小夜さんのことは気になってたんだけど……今ならもっと上手く演奏できると思う」
日高くんが少し照れくさそうな表情で言った。
わたしの頬がじわじわと熱を持つ。
「……聞きたい。日高くんのセレナーデ、聞かせて」
「わかった。小夜さんのためだけに演奏するね」
日高くんは優しい声で言うと、黒い台の上からマレットを二本取った。
マリンバの前に立って、すっと構える。
そして素早くたたくトレモロの技法で、優雅に曲を奏で始めた。
わたしは、ドキドキしながら日高くんの演奏に聞き入った。
ドキドキしても、もう左の胸元は痛くならない。
(……ああ、今わたし、最高に幸せだなぁ~……)
ふわっと笑みがこぼれる。
音楽準備室にコロロロ……と甘く美しいマリンバの音色が響いた。
日高くんのセレナーデ、それは確かに愛の曲だった。
そして、その日の夜のこと――。
人魚姫の病が完治したことをパパとママに報告したら、二人ともうれし泣きしちゃって、そしたら、わたしもわんわん泣いちゃって……三人で抱きしめ合って、思いきり泣いた。
そのあとで、ぜひ、日高くんを紹介してほしいと言われて、日高くんを家に招待して、みんなで笑い合いながら楽しくすごした日のことは、また別の機会に話すね!
人魚姫の病 わたし、絶対恋愛できません! 幸村かなえ @yukimurakanae
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