雨男と七夕の花嫁

土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)

全1話 雨男と七夕の花嫁

 今年の七夕は朝から雨が降っていた。


「こりゃあ晴れの門出にゃならねべな。やっぱりワシが雨男のせいだべが」


 件一郎けんいちろうは窓越しにしとしと静かに雨を降らせている空を見上げて言った。


「違いねぇ。結婚式だのに雨になったんはっちゃのせいだべな」


 だが、そう言う娘の景織子きょうこも件一郎も非常に晴れやかな顔をしている。


「「まあ、雨男だがら想定内だべな」」


 そう言って笑い合う二人。


「そもそも、あの年の七夕、雨降っで困っでた一彦かずひこさんにっちゃが傘を貸さねがったら今日という日はながったべが?」


「んだな。出会いも雨なら、雨の門出かどでも乙なもんだべなぁ」


「だばって式さ出てくれる人に『当日は雨が予想されますので傘を忘れずにお持ちください』なんてメッセージとカラフルな傘の引き出物のギフトの前渡しってっちゃのアイディアには驚いたべな」


そなえあればうれいなしだじゃ」


本当ほんどはそれだけでねえべが、っちゃ?」


 景織子が件一郎をじっと見つめる。


「お見どおしだじゃぁ!」


 大袈裟に驚くふりをする件一郎。


っちゃの娘だがらな」


「参っだな」


 そう言って件一郎は頭をかく。


「ほら、さっさと白状するへ!」


「…………折角の結婚式だべな。天国のっちゃからこっちさ見だとき、色とりどりのあざやかな傘が花みたいにひらいでた方が、きれいだべなぁと思ったんだじゃ」


っちゃは相変わらずロマンチックだべな。顔さいかついけんど」


「顔のことは余計だじゃ!」


「だがらっちゃもっちゃに惚れたんだべな」


「あーあーなに言ってるが聞こえねぇじゃ」


「もう!」


 コンコンコン。ノックの音がした。


「はあい、どうぞ!」


 仲人の白田夫妻が控室に入ってきた。


「みなさん花嫁さんをお待ちがねだぁ。そろそろ出番だがら行くべよ」


「白田さん、本日は仲人ありがとうございます」


「ええって、ええって」


 皆で控室を出るとき、件一郎はもう一度雨空を見上げ目を細めた。


めぐみ、雨の日だばって景織子の晴れ姿、目のいいお前ならようく見えるべな。しっかり見守っておくれ」


 そうつぶやき、件一郎はそっと控室の扉を閉めた。

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雨男と七夕の花嫁 土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり) @TokiYorinori

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