「願いの叶う泉―甘美な罠にはご注意を―」

花紗音

「甘美な願い、その果てに」



「ああ!神様、女神様、仏様!!

俺の願いが叶うならば叶えてください!

そのためにはどんなことでもします!!」


高校の授業が終わった放課後、

俺は誰もいない教室でひとり叫んだ。


(まあ、でもそんな願いが簡単に叶えられてたら

 こんな悔しい思いをしていないよな…。)

不意に黒い影が窓の外を横切った。

おそらく、カラスだろう。


そんなことを考えていると、


「うん。良いだろう。

ただし、おまえの命で、な。あ、冗談だよ?冗談。

 ―コホン。

そんなに必死に願うなら叶えてあげるさぁ。ここに来ると良いよ。」


と突然頭に言葉が響いたと思ったら

手に雑な線と文字で場所が書かれた紙を握らされていた。


え!?良いのか??

ここは据え膳食わなきゃ損だ!!随分雑な神様だが乗らない手はない。


「なになに?”願いの叶える泉”?

『ここだよ〜。』って雑でフレンドリーすぎないか笑?

 まあ、ここから自転車で5分で着く

 ■■■神社の裏みたいだし、とりあえず行ってみるか。」



◇◆◇



「さて、ここが”願いが叶う泉”かぁ。随分と嘘くさいな。」


書かれて場所に着くと

そこは段ボールで作られた看板があって

文字も小さく書いてあったり、大きく書いてあったりで見にくい。

周囲もド◯キみたいに装飾品でゴテゴテしている。


「なになに?3回心のなかで願い事を唱える?胡散臭いな笑。」


まあ、手段は選ばないのが俺のモットーだから

さっそく願ってみよう。



――――――――――――――――――――――――


さっきの神様。

          

アレが叶いますように。

アレが叶いますように。

アレが叶いますように。



―――――――――――――――――――――――――



よしっ。これで良いはず!



『…………。


 ……………………。


 あのさぁ、、どんな願い事か、せめて言ってくれないかな?

 この場所が胡散臭いって思ってるのは伝わったけど、

流石に言ってくれないと神様でもわからないよ?


でも、特別大サービスで今日一日中”何でも”思ったことが

叶うようにしといたから感謝してよね〜?



じゃ、今日はもう眠いから、バイバーイ。

気が向いたらまた願い、叶えてあげるかもね?』




よし、計画通りだ!


願いがいっぱいあるから

とりあえずアレって言っとけば

あの神様、わりと雑だったから

適当に全部叶えてくれそうだなって思ったんだよな。

ラッキー!!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


①スーパーの逃したセールがもう一回起こる!


セールじゃないと家計が苦しいんだよな。

ただでさえ7人の大家族で末っ子の弟が病気だから。

両親は共働き。俺が長男だから、買い出しに行くんだ。


②一生暮らしていく分のお金が欲しい。


上と同じような理由だ。


③彼女が欲しい。


恋を我慢してきた分、彼女が欲しい。


④もっと、もっと、もっと……願いが叶えば、それでいい


「家族はもういいだろ。俺だって……少しくらい、幸せになっても、いいよな?」


心の中で、最初は言い訳みたいに願っていたのに、次第に頭の中がその“快感”で満たされていく。


もっとだ。もっと。もっと欲しい……!


――欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい、欲しい、欲しい。


……もう、止まらない。止めたくもない。


……………………


………………


…………



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



その日は全部思ったことが叶った!!

俺自身の願いが家族のことの願いを、とうに超えていた。


夢みたいだ!!

俺は拳を握りしめた。


家に帰れば、また弟の咳と、母さんのため息と、父さんの疲れた顔。

「俺だけでも、もっと幸せになりたい……!」

ずっとこれからもあの神様のことを利用してやるぞ!!


ハハッ、なんだこれ、身体が熱くて、くらくらする……。

願いが叶うって、こんなに幸せなんだな……。


俺は幸せのまま、目を閉じた。

――それが、最後だった。



◇◆◇


次のニュースです。

〇〇市の男子高校生(17)が


今朝、干からびたような状態で■■■神社の裏で死体となって発見されました。


現在、警察が事件の真相を調査中です。

状況がわかり次第、改めてお伝えします。



◇◆◇




うん。うまくいったみたいじゃない?


途中で力使いすぎて眠くなっちゃうのが欠点だけど。


幸せの中で死ねるならウレシイでしょ?

どうせ、ボクを頼った時点で生きる価値ないし。


アハハッ。


――――



神のフリをするのも悪くないな。

ターゲットを決めるときに

わざわざ見に行かないといけないのは面倒だが、

良い収穫につながるしな。



これからも人間どもから幻想を見せている間に

”生命力”を奪っていくとするか。

最近の若者は簡単で助かる。味もいいし。

しばらく食いっぱぐれなさそうだ。


……あぁ、でも次はもっと面白いヤツがいいな。

あのクラスの窓際に座ってた、あの子とか、ケケケッ。



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「願いの叶う泉―甘美な罠にはご注意を―」 花紗音 @Kasane_

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