エピローグ
後日談
陽光が戦後のラウィニアを照らす。
「おい、朝だぜ」
男の声がマリアの耳に届く。ベッドから身を起こすと、マリアは一つ大きな
「おはよう。お兄ちゃん」
「おはよ。マリア。朝食、パリスが届けてくれたから冷めない口に食べようぜ。今日も忙しいんだろ?」
「それ、お兄ちゃんもでしょ?」
「はは、そうだな。さて、今日はパリスに何を指示されるのやら。まあでも頑張るしかねえよな。生き残った僕らでこのラウィニアを一日も早く復興させねえと、どうにか逃げ出せた人達は戻って来てはくれねえだろうし」
「私もよ。戦争が終わって一ヶ月が過ぎたけど、心に傷を抱えてる子供が市内にはたくさんいるもの。その子達の傷を癒すために頑張らないと」
「いい心構えだ。兄ちゃん、感動した!」
「ちょっともう、茶化さないでよ」
「わりいわりい。あ、そう言えば前に頼んどいたやつ、今朝届いてたぜ。ほれ」
マリアが、アキレウスから投げられた小包を受け止める。開封すると、中には金製の雄鶏の飾りが入っていた。マリアは飾りを見つめながら呟く。
コケコ、お空の上から見ててね。これからの私を。
雄鶏の飾りを麦わら帽子に括りつけると、マリアはアキレウスと朝食をとった。そして、アキレウスの住んでいた今では共同生活の場となっていた
「おはよう。マリアさん」
「おはようございます。カトゥルス先生。お怪我は治りましたか?」
「いや、全然。やはり、六十を超えた身で槍を振り回すものではないね。おかげで以前よりも五十肩が酷くなった。だが、そうでもしていなければ、ここからファレルまで逃げて、君の想い人の率いる軍との合流は叶わなかっただろうがね」
マリアが頬を染めていると、街道を一人の男が大勢の従者を引き連れて来ていた。マリアとカトゥルスが道を譲る。男は「清き一票を!」という従者らの呼びかけを聞きつけて駆け寄って来た市民に近づき、固く握手を交わしていった。
「指揮官でありながら戦場を逃げ出し、森の中を彷徨っていたところを発見された、あのクラッスス殿をもう一度
「仕方ありませんよ。ラウィニアの貴族の殿方が大勢亡くなられた今、国の舵取りを任せられる人はあまりいないのですから。ですが今のクラッススさまなら、前よりはずっと真面目に政務に励むとは思います。大切な娘さんを亡くして、心を入れ替えたように見受けられますので」
カトゥルスが「君が言うなら、そうなのだろうね」と答えると、今度はクラッススと同様に従者を引き連れたピソがマリアらの前で立ち止まり、マリアの手を握ってきた。
「どうかボクにぃ、清き一票を!」
「あら、ピソさま。私は女性なので投票権はありませんよ」
「あぁ、そうだったぁ。でも、いいのさぁ。このラウィニアの壊滅を寸前で食い止めた『
「お世辞がお上手ですね」
「いやいやぁ、本当なんだってばぁ。会談の席でボクはのびちゃってたしぃ。やはり君がいてくれなきゃぁ、このラウィニアは消滅していたと思うとぉ、君が会談に同席してくれたのは本当によかったと思ってるんだよぉ」
いいえ、ピソさま。私はあくまで時間を稼いだに過ぎませんわ。だって、本当の意味でラウィニアを救ってくださったのは……。
その時。向こうからさらに一人の男が数人の従者と共に姿を見せた。街道の人々から「パリスさま!」とか「我らの救い主!」とかいった言葉をかけられながら、パリスは従者らに壊れている市壁を指し示していた。
「
「おはようございます。パリス閣下」
「おはよう、マリアさん。マリウス殿から任された『ユシアダイ学園ラウィニア支部』に十分な予算を出す議案は元老院で可決されました。これで君が運営を任させている学校の運営費も賄えるようにはなると思います。もし、また資金面で何か問題が発生したら、その都度お話ください。元老院に
「ありがとうございます。閣下。私も孤児達の心のケアと学習環境の整備に全力を挙げて取り組みますので、どうか援助をよろしくお願いします」
マリアが深々とお辞儀をする。するとパリスは馬から降りて、彼女に近づくと耳元で
「先日、父上から許しがもらえました。つきましては後日あなたの父上に会って、あなたとの婚約について色々と話し合いたいのですが。都合のいい日を教えてくれませんか」
マリアの顔が太陽よりも明るくなる。そして彼女はこう答えるのだった。
「いつでも! なんだったら今すぐにでも! 私、一分一秒でも早く、パリスさまの妻になりたいんです!」
いきなり抱きつかれ、マリアと一緒に街道の敷石に倒れるパリスであったが、やがて彼女と熱い抱擁を公衆の面前でして見せて、人々から祝福されるのであった。
(完)
『お助け先生』マリアさん、指導に恋に大忙し!? 荒川馳夫(あらかわ はせお) @arakawa_haseo111
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