e-2
翌日、私はぐびんだ殺人事件――地元ではそう呼ばれているらしい――の捜査本部に電話をかけた。愛染の推理が正しいのか確かめるためだ。
実は、真相が気になって夜も寝られなかったのだ。
愛染の推理を自分なりに検証しようと思ったのがまずかった。事件当日のことを何度も思い返しているうちに、どこまでが事実で、どこからが推測なのかわからなくなってしまい、考えれば考えるほど推理は荒唐無稽なものになっていった。仕舞いには、天狗になった山伏の怨霊が拝殿のものを逆さかにする幻影がちらつくほどになっていた。
外が明るくなってきた頃、私は、現場の刑事の意見を聞くのが一番だという結論に至った。もちろん、捜査に関する情報を警察に伝えるのは市民の義務でもある。
9時を過ぎるのを待って、捜査協力の件で何度か話をした刑事に電話をした。
「ああ、清水先生ですか」刑事は暢気な調子で言った。「情報が早いですな」
「え? 早い? どういうことですか?」
私がそう問い返すと、刑事は
「あれ?
それを聞いて私は胸の奥がきゅっと痛むのを感じた。赤の他人なのに変だなと思ったが、痛みの余韻はなかなか消えなかった。
「やっぱり東朱美と井口康男の共謀だったんですか?」
「なあんだ、知っているんじゃないですか」
刑事はなぜか少し嬉しそうな声を出した。
「いや、そうではなく――」
私が愛染とのいきさつを話すと、刑事はしきりに感心してみせた。
「いやー、それだけの話で真犯人がわかってしまうもんなんですね。賢い人は違いますなあ。お説の通り、もともとは5人の共謀で井口康男を殺す計画だったのですが、朱美が井口側に寝返って東利和が殺されることになったんですよ。まったく、すっかり
なんでも昼から記者会見をするとかで、それで私にもぺらぺらしゃべってくれたらしい。謎の密室殺人があっさり解決したので目出度い気分になっていることが彼の言葉から伝わってきたが、私はいまだ釈然としないものを感じていた。
刑事が誇らしげに語る捜査の苦労話を聞き流しながら、この3年の間に朱美の心にどんな変化があったのだろう、と私は考えていた。
こればかりは愛染にもわからないだろう。
了
祟り神の慰み――二重の密室と別れを言いに来た幽霊 ZZ・倶舎那 @ZZ-kushana
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます