実際にあった怖い話――第三夜
瓶詰めジジイの尋常ではない書き込み。
ワンワン仁王伝に対する過剰な反応。
私は謎を解くためワンワン仁王伝について調べることにした。
だが、残念ながら作品は削除されていた。
そこで見つけたのが、ワンワン仁王伝の作者、木原 学のツイッターだ。
「なんだこれ?」
読んだ瞬間、その異常性に気づいた。
支離滅裂だったのだ。おおよそ、人に読ませる文章ではない。
独り言のように書きなぐられる恨みつらみ、呪いの言葉。
「こんなにひどかったか?」
晒し記事で返信した文章とワンワン仁王伝の物語。
つたない部分は確かにあったが、こんな支離滅裂ではなかった。
ちゃんと意味は通じていた。
自身の小説を否定され、怒りで言葉が攻撃的になろうとも、相手に伝えようとする意志は見られた。
だが、今の彼の文章には、それが一切なかった。
普通の精神状態ではないことは明らかだった。
それら文章をいくつか読んでいく。
かなり難解ではあったが、読み解いていく。
そして、ある程度、話の流れが分かってきた。
以下に記すのは彼のツイッター、瓶詰めジジイのアカウント、他のサイトの書き込みなどから得た私なりの解釈だ。
木原 学。彼の描いたワンワン仁王伝はサイト運営者によって削除された。
理由は二次創作だ。
サイトにもよるが、WEB小説は基本二次創作を認めていない。
あっても、著作権保持者が認めている作品のみだ。
木原学の元作品は認められていない。二次創作として著作権法違反となった。
だから運営により削除されてしまった。
木原はバックアップを取っていなかったのだろう。自身が小説に費やした時間、愛したキャラクターと物語、全てを失ってしまった。
その悲しみが彼を狂わせた。
これを聞いて多くの人は自業自得だと思うだろうか?
許可されていない作品の二次創作をしたから悪いのだと。
だが、これにはわずかな行き違いと、ズレた正義感が背景にあった。
木原は好きな作品からキャラクターの名前を借りてきただけだったのだ。
彼のツイッターにはそのことが記されていた。
二次創作ではなかった。キャラや物語はオリジナルだった。
なぜこんな行き違いが生まれたか。
それは彼の文章力にあった。
作品紹介だったかは正確には覚えていないが、二次創作と思わしき記述があったのだ。
私自身それを目にした瞬間、あれ? この作品二次創作? と思ったぐらいだ。
だが、実際のところ、キャラクターの名前のみの使用だった。
彼の説明が下手だったのだ。
私は元の作品を知らないので、彼の主張が真実は分からない。が、少なくとも木原はそう訴えていた。
だが、結果は運営による作品の削除だ。規約違反として。
この規約違反。
多くは、ユーザーからの通報で発覚する。
WEB小説の世界は広い。運営の目はなかなか届かないのだ。
木原の小説も、おそらくユーザーからの通報だと予想される。
木原も同様に考えたはずだ。
あまり読まれていない自身の小説、読み速での対立。
自作を通報したのは読み速ユーザーであると木原が考えたであろうことは、容易に想像できた。
運営から木原へ警告がいく。
木原はもちろん二次創作ではないと主張した。
だが、運営には聞き入れてもらえなかった。
結果作品は削除された。
私が見た時は彼のアカウントも消えていた。
もしかしたら、運営とモメてアカウントごと削除になったのかもしれない。
そのときの木原の怒りはどれほどのものだっただろうか?
想像に難くない。
私が思うに、作品を削除されたことよりも、自身の主張を認めてもらえなかったことが彼の心を壊した原因ではないだろうか。
木原は激しく憎んだだろう。通報者を。読み速ユーザーを。
だが、彼にはどうすることもできない。
ネットは匿名だ。相手はどこの誰か分からないのだ。
――だが、ここで私の背中に冷たいものが走った。
違う。いるじゃないか。身元が分かる者が。
瓶詰めジジイだ。自身のアカウントを晒した、あの瓶詰めジジイ。
木原の怒りは瓶詰めジジイに向かった。
瓶詰めジジイに対する木原の執拗な攻撃。
瓶詰めジジイの小説に対する誹謗中傷。
それは、激しく長く続いた。
瓶詰めジジイの精神を追い込むほどに。
とうぜん、瓶詰めジジイは自分は通報していないと訴えただろう。
私も彼は関与していないと思う。
だが、木原には通じない。
読み速での自身にむけられた否定的な言葉の数々、そのうっぷんを晴らすかのように汚い言葉を投げつける。
瓶詰めジジイとしてはたまったものではない。
そもそも、瓶詰めジジイは木原の作品をけなしただろうか?
いや、けなしていない。そのようなコメントは見ていない。
瓶詰めジジイもそう訴えたはず。
だが、木原は信用などしない。するはずもない。
なぜならIDは自身の手で変えられる。そう主張していたのは他ならぬ瓶詰めジジイだったからだ。
もしかしたら木原も、通報者は瓶詰めジジイではないとうすうす感じていたかもしれない。
だが、止まらない、止められない。木原の怒りをむけられる相手は、瓶詰めジジイしかいないのだ。
あるいは木原にとって、瓶詰めジジイが関与していたかどうかはどうでもいいことだったかもしれない。
なぜなら、いくら自分が二次創作ではないと訴えたところで取り合ってもらえなかったからだ。
自身のされたことをやり返しているに過ぎないのだ。
このあたりは私の想像でしかない。
木原の攻撃がどんなものだったか、瓶詰めジジイとどのようなやり取りがあったかも分からない。全ては消されてしまっていたから。
瓶詰めジジイが木原との関わりを恐れ、削除してしまっていた。
残っていたのは、誰に対してか分からない、もうやめてくれの一言だった。
やがて瓶詰めジジイの小説は消えた。
アカウントも消えた。
あの書き込みが再び木原に火をつけたのだろうか?
わからない。ただ、瓶詰めジジイも相当おかしくなっているように思えた。
これが私が得た真実だ。
本当の真実はもっと別にあったかもしれない。
経緯を知っている者には、これとは別の真実が見えていたかもしれない。
だが、私にはこれ以上見つけられなかった。
遅すぎたのだ。多くの情報はすでに消えてしまった後だった。
瓶詰めジジイのアカウントはもうない。
木原の小説もない。
読み速のサイトも閉鎖されてしまった。
確認する術はもう残されていない。
もし、あのとき、瓶詰めジジイが小説のアカウントを晒さなかったら?
木原が晒し記事に依頼をしなかったら?
彼らの人生はおかしな方向へ向かうことはなかっただろう。
ほんの小さな選択ミスが、彼ら自身の居場所を奪ったのだ。
実際にあった怖い話――作品批評に潜む悪意 ウツロ @jantar
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