文字の羅列から様々な憶測を呼ぶこの
モキュメンタリーは、今迄に類を見ない
『仕掛け』を内包している。
一つずつの章が、生徒の家庭を訪問した
記録であるのだが…。
何かが、おかしい。
その違和感は、些少なものからあり得ない
様なものまで大小様々に散りばめられて、
ややもすると、気付かずに読み進めて
しまうかも知れない。
或いは、ツッコミを入れつつコメディの
如き感覚で読んで行くのかも知れないが。
だが、いつしか違和感は異物感となり、
恐怖の棘となる。
恐怖という棘を孕みつつ、クラス全員の家庭を訪問すると……。
そこで初めて 本当の恐怖 を味わう。
そこに作者の真の物語を展開する異彩を
見るだろう。これはまさに古典的な怪談の
手法を踏襲しつつ、怖さと笑いとの絶妙な
陌間を征く天才の成せる技である。
昭和・平成な時代、新年度を迎えた興奮がひと段落したところで、さて、とばかりに行われたのが家庭訪問でした。先生が家に来る! むずむずするような気分で玄関のチャイムが鳴るのに耳を澄ませていたのを思い出します。
かたや、先生はというと、日々の業務をこなしつつ、数十人の保護者と時間調整をして家々を回るなんて、大変な仕事だったでしょう。
本作は、とある小学校に勤務する宮崎ほのか先生の家庭訪問記録。二十人ほどの児童の家にお邪魔し、(原則)保護者と語らい、記録を残しています。
二十も集まれば、いろんな家庭があります。普通の家庭なのに一本ネジが飛んでいたり。温かそうな家庭に見えてサイコぽかったり。異常な家庭なのに実に円満だったり。突然修羅場が始まったり。人でないモノがときどき混じっていたり。これはぶっ飛んでいると笑いつつ、でも、実際にありえそうなところが怖いのです。
宮崎先生はたんたんとこなし、記録を残します。先生ですから。何が起きようとポジティブにとらえ、ひたすら前進あるのみです。そのアグレッシブなところは、どうやら中学生の時から変わっていないようですね。
いくつかモキュメンタリーの小説は読んだのですが、そのどれとも違った味わいがある作品でした。
ある小学校に勤務している先生――宮崎ほのかが、担当しているクラスの家庭訪問をしたようで、それを記録したものがまとめられています。
その文書のところどころに「ん?」とひっかかるところがあって、そういう違和感を抱くような部分が淡々と記述されているのが不気味です。
どの家庭も普通の感覚からすると異常としか思えない点があり、この家で何が起こっているのか、実際に自分も訪問して確かめたい気持ちにさせられます。
いや、でも、やっぱり怖いから確かめたくないな……。
読み進めていくと、生徒とその家庭だけじゃなくて、先生も変だなって思うところが出てきて、なんていうか、もうこれ、学校自体、いや、この世界自体が普通じゃないのでは……という気がしてきます。
学校やそれぞれのご家庭で何が起きているのか
先生や生徒たちは何者なのか
それらの答えが明かされることはなかったけど、そのおかげでいろいろと想像ができて楽しいです。
考察しがいのある作品だと思います。おすすめです。
恐ろしくて面白い、新感覚のモキュメンタリーホラーです。
学校教師である宮崎ほのかがクラスの生徒の一人一人の家を家庭訪問していきます。
児童の名前や家族構成、学校での児童の態度など。それらを記入。
そして最後に備考欄。その家庭で目に付いたものが記録されます。
読む度に、「ぐはあ!」と読者は毎回やられてしまうこと不可避!
どう見てもヤバいだろう、この家、と思わされるような展開のオンパレード。「明らかに事件が起きてる!」、「常識で説明のつかない怪現象が!」、「これ、絶対何かに呪われてる!」などなど。
だが、先生の「スルースキル」が神クラスであるため、これらの異常現象は「備考欄」でサラッと書かれて終了していく。
この先生、ただもんじゃねえ!!!
読み進めるごとに確信に変わる。この先生のズレっぷり、または卓越っぷり。
特に「トイレに入れなかった」時の反応などが秀逸過ぎて、「生徒たちの家も大概だけど、先生も十分に……」と読者は打ちのめされます。
この土地は一体どうなってるのだろう。まともな人は生活しているのか。
読めば読むほど、想像力が刺激されていきます。一話一話のバリエーションが豊富で、毎回備考欄に出てくる内容の意外性が読者を楽しませてくれます。
シュールな世界観、ツッコミを入れたくなる先生の低温っぷり。今までになかったタイプのエンターテインメントが味わえる作品です。