『聖クラウディアンの肖像』は、とにかく描写の緻密さが圧巻です。
色や光、質感、空気感――まるで目の前で情景が立ち上がるような細やかさで、文字のひとつひとつが映像に変換されていく感覚を味わえます。
特に家具や衣服、食べ物、そして絵筆やパレット、絵具といった画材まで、“手触り”や“香り”が伝わるほどのリアルさ。
キャラクターの仕草や表情も生々しく、ドラロッシュの何気ない動作ひとつにまで色気と癖がにじみ、アン(クラウディアン)の視線の温度まで伝わってくるほどです。
そのリアルさが、穏やかな日常のやり取りにさえ、微妙な緊張感や駆け引きの気配を漂わせます。
父娘の軽口の裏に潜む支配や依存、愛情とからかいの境界線が、じわじわと胸を締め付ける――。
この関係はどうなっていくのでしょうか。
さぁ、一緒にジレましょう……。
最新話まで追いついたので書きます。
転生先は女誑しの天才画家を父に持つ娘。まだ15にもならない子どもです。
一見するとインパクト絶大、どんな父親だよと突っ込まずにいられない笑える展開が待ち受けているだろうと思うでしょう。実際に笑える展開が多いのは事実です。
しかし、本質は別のところにあります。主に2つ。明暗で例えるのなら、明に当たるのが画の描写です。
文章で表現されているはずなのに、目の前にその画が存在しているように感じられます。それだけでなく、細かい技法なども丁寧に描写されており、気迫に圧倒されます。
そして、暗に当たるところが向けられる強すぎる愛情。
最初こそ溺愛ぶりを笑って読めるのですが、少しずつ軋んでいるように感じてきます。ネタバレになるので詳しいことは書けませんが、油のように染み込んでくる感じもまた形容し難い美しさがあります。
毒は薬にもなる。しかし、間違えれば人を殺す毒になる。
ファタールは致死量の毒か。否か。
前世にて、二十代の若さで世を去った「私」は、若き天才画家の娘に転生していた。
その画家の名はドラロッシュ、娘である「私」はクラウディアン。『アン』と呼ばれている。
ドラロッシュはとてつもない過保護で、外は危険だからと外出する機会を与えてくれないほど。
その反面、当の本人は、画家の仕事に乗じてモデルやパトロンの家に愛人を作っては捨てるという、生粋の遊び人気質。
そんなドラロッシュを最低だと冷めた目で眺めながら、「私」はこの狭くて美しい世界の中で、色々な思いを抱いていく……。
本作を拝読して、このヨーロッパ風の世界を存分に体感させてくれる描写の凄さには圧倒されました!
ドラロッシュとアンの住む屋敷、商いで賑わうオランジェ街、そして画家の傑作が生まれる場所・アトリエ(工房)の、画材の一つ一つに至るまで丁寧に描かれた世界は、一読すれば即その世界へと誘われることは間違いありません!
また、父親が天才的な画家ということもあり、有名な絵画をモチーフとした絵が登場、作者様が参考にしたとされる元の絵画を見つめながら読むと、世界観がさらに鮮やかに見えてきます。
そして、ドラロッシュは父親としてはあまりに若く、アンとの関係性に多くの謎を残しております。
この謎に導かれるようにして読み進めるのと、大人の危うい世界に足を踏み入れてしまったかのようなドキドキした気持ちを味わえました!
物語の行方はどうなっていくのか!?
まだまだ目が離せない傑作!
是非ともご一読下さい!
この作品は、まるで美しいものをぎゅっと集めたような作品です。
主人公のアンは前世の記憶を持つ少女。文章は映像的で、描かれる情景が全て目に映されるようです。
物語は、主人公のアンが別世界で子どもとして新たな人生を歩み始めるところから始まります。彼女の育ての親であるドラロッシュは、若くして名を馳せる天才画家であり、同時に女たらし(?)として悪名高い存在。そんな彼が我が娘にうっとおしい程の愛を注ぎます・・・。
自分がこの作中で驚いたのは何といっても、絵画が数多く登場するところ。その内容を非常に緻密に描写しきっているのです! それはまるで美術館を巡っているかのよう。
今は、愛される喜びと、檻に閉じ込められたような孤独感、そして優しさの裏に潜む違和感を感じているようですが、今後どうなるか追ってみたいと思います。
これは、生まれ変わった少女が過去と現在の狭間で生き直しを図る、切なくも美しい再生の物語です。
目覚めたとき、
私はもう、『私』ではなかった。
熱に浮かされた四歳の夜。
少女クラウディアンの身体に、別の人生の記憶が宿る。
それは、命を終えたはずの『私』が、異なる世界で目覚めた瞬間だった。
迎えに来たのは、
息を呑むほど美しい男――ドラロッシュ。
天才画家、悪名高い色事師、そして父親。
けれどその愛は優しすぎて、甘すぎて、
まるで劇薬のように私を包み込む。
口づけ、抱擁、溺愛。
幼い娘である私を、
ドラロッシュは容赦なく大人の甘やかしで満たしてくる。
だが私は知っている。
この幸せは本物じゃない。
それでも、演じなければならない。
愛される娘として。
クラウディアンとして。
街に出れば、誰もが私に優しく微笑みかける。
でもその視線の奥にある、同情と哀れみに私は気づいている。
私は父の愛に守られているのではない。
檻の中で美しく飼いならされているのだ。
これは、
前世を思い出してしまった少女が、
愛と孤独と名前の真実をめぐって、生きなおしを始める物語。