かわいそうな剣~剣視点で見る、勇者という災厄~
有音 凍
かわいそうな剣~剣視点で見る、勇者という災厄~
むかしむかし、あるところに、鉄の剣がありました。
ごくふつうの、どこにでもある、ちょっと古びた鉄の剣です。
でも、その剣には、ひとつだけ、特別なことがありました。
それは――「勇者」に拾われたこと。
その勇者は、空の神さまに愛された、たいそうすごい力の持ち主でした。
だけど、ちょっぴり困った人でもありました。
「家の奥に隠すは、即ち秘宝なり。然らば開くは道理ぞ」
と、よそのおうちにズカズカ入って、たんすやつぼを勝手に開けたり、壊したり。
「魔なる者は、即ち討つべし。此の理、疑う余地なし」
と、勇者は、魔物たちを森とか山や、近くの村や畑ごとまとめて焼き払ったり。
……勇者は、だいぶ頭があぶない人でした。
そんな彼が、なぜか手にしていたのが――鉄の剣でした。
「此の剣こそ、我が運命の象徴なり。疑うなかれ」
――われ思うゆえに、運命の剣。異論は許さん。
でも、剣のほうはこう思っていました。
(ちがうよ~。ぼくはただの、ふつうの剣だよ~!)
◇
ある日、勇者はお城の中のお墓をあさっていました。
扉が開かないと見るや、剣をすきまに差し込んで――てこの原理でムギギギギ!
……ぽきん。
「力足らねば、道は開かぬ。剣もまた然り」
(勇者のばかぢから……いたいよぉ~シクシク)
へし折れた剣は、涙をこぼしました。
◇
つぎの日、鍛冶屋さんにつれていかれて、勇者はこう言います。
「二度と折れぬように」
(また壊れたら許さないって……)
剣は玉鋼をまぜられて、またもとの形にされました。
そのあとも、森の中で魔獣をやっつけすぎて、また「ぽきん」。
「軟弱なるもの、折れて当然。是、世界の掟なり」
鍛冶屋さんで今度はミスリルがまぜられました。
またそのあとも、りゅうを怒らせて火をあびて、また「ぽっきり」。
「心、熱ければ金属もまた耐えうる。汝、修行が足らぬ」
三たび鍛冶屋さんで、今度はオリハルコンを入れられて……
「これで竜の心臓すら断てよう。否、魂さえ逃すまい」
(……ぼく、いったい、なにでできてるの?)
剣はさめざめと泣きました。
◇
さてさて、さいごのたたかい――魔王との対決です。
燃えるような戦いのすえ、勇者は魔王をたおしました。
「また、折れておる……されど、この折れ、勝利の証なり!」
(また壊れたけど……折れたのに、褒められちゃった!)
ちょっぴりうれしくなった剣が、ちょっぴり元気を取り戻した、その時でした。
勇者は、魔王城のどこかから――なんとも怪しい金属のかけらを持ってきました。
それは見るからにあやしく、ぜったい呪われてます。
「禍をも呑み込むが真の強者。これを鍛えに混ぜよ」
(そんなの混ぜないでぇ~もうやめて~!)
剣は思いました。叫びたかったのです。
(ぼくはただの鉄の剣なんだよ~~!)
でも、剣には、こころの声はあっても、声が出せません。
だから、今日もまた、勇者の背中にささったまま――
ひそかに、“のろいの剣”が涙をながすのです。
「呵々……強き剣とは、折れようとも呪われようとも立ち上がり、振るわれ続ける宿命を背負うものなり――それが剣の本懐と知れ!」
(なにをいってるかわかんないよぉ~!)
ああ、かわいそうな剣……
おしまい。
かわいそうな剣~剣視点で見る、勇者という災厄~ 有音 凍 @d-taisa
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