【あの夢を見たのは、これで9回目だった。】【KAC20254】

MKT

【あの夢を見たのは、これで9回目だった。】

「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」


 最初は半年前のことだった。


 見知らぬ廊下を歩いている。どこかの古びた学校のようだった。壁はひび割れ、天井からは蛍光灯がチカチカと瞬いている。足元には黒い染みが点々と続いていた。


 カツン、カツン。


 誰かが、前を歩いている。白いワンピースを着た、長い黒髪の女だ。彼女は決して振り向かず、ゆっくりと歩き続ける。私はなぜか、追わなければならない気がして、足を進める。


 やがて、廊下の突き当たりに赤い扉が現れる。女は立ち止まり、扉の前でふいに振り向く。


 その顔を見た瞬間——いつもそこで目が覚める。


 9回目の今夜も、同じだった。


 だが、何かが違う気がした。


 いつもは目覚めた瞬間、心臓がバクバクと波打ち、冷や汗で全身が濡れている。だが、やけに落ち着いていた。続きが気になって仕方がない。


 枕元のスマホを手に取り、思い立って検索をかけた。


 「夢 同じ場所 繰り返す」


 いくつかのサイトを開くうちに、ある書き込みが目に留まった。


 「同じ夢を何度も見る人へ。それはただの夢じゃない。“9回”見た後、次に見たら絶対に赤い扉を開けるな」


 自分に向けられた警告のようだった。


 それ以上の情報はなかった。


 嫌な予感を抱えたまま、私は再び眠りについた。


 ——そして10回目……。


 同じ廊下。チカチカと光る蛍光灯。女の後ろ姿。


 足が勝手に動く。意志とは関係なく、彼女の後を追い、赤い扉の前で立ち止まる。


 ——何かが違う。


 これまでと違い、女は振り向かない。代わりに、ゆっくりと細い腕を伸ばし、扉を開けようとする。


 開けてはならない。


 警告の言葉が脳裏にこだまする。


 私は咄嗟に女の手を掴んだ。


 すると、女がゆっくりこちらを向いた。


 ——そこには、“私自身”の顔があった。


 「やっと気づいた?」


 私が言った。いや、“私ではない何か”が、私の声で囁いた。


 「開けなきゃ、帰れないよ」


 ゾクリとする感覚が背筋を駆け上がる。私は 後ずさった。


 「……開けない」


 そう呟くと、世界が一瞬で暗転した。

 ——目が覚めた。


 あれから、あの夢を見ることはなくなった。


 だが、一つだけおかしなことがある。


 私の部屋のクローゼット。

った

 あの夢の赤い扉と、まったく同じデザインなのだ。

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