第6話 神戸全国バレエコンクール決選を終えて

五月五日 コンクール決選


 この日、全ての部門の決選が大ホールで行われる。毎年、決選はこの大きなホールで立ち見客が出るほど観客が入る。コンクールはこれから国内外で活躍するバレエダンサーたちが一堂に集まる場所でもある。


 真美はこの日も自分の持てる全てを出し切れたと思った。真美のすぐ後に河合瑞希かわいみずきが踊る。この日も瑞希の踊りには会場が騒然となるほどの拍手が起こった。

 悔いなどなかった。河合瑞希という天才ダンサーと一緒の舞台に立てることなどあり得ないことだった。このコンクールで一位になりたいと頑張ってきた真美だったが、今は瑞希と同じ舞台に立てたことが何より嬉しかった。


 全ての部門が終わり表彰式が始まった。上位入賞者が発表された。舞台に各部門の上位入賞者が上がる。


「ジュニア一部門 第六位 藤沢華ふじさわはなさん」

 華が表彰状を受け取りに行く。

「第五位 橘麗たちばなうららさん……第四位 芳野舞よしのまいさん……」

「第三位 川村彩かわむらあやさん」

『コッペリア』のスワニルダを踊った川村彩というダンサーが瑞希に微笑みながら表彰状を受け取りに行く。

「第二位 鹿島真美さん」

 先程の川村彩というダンサーが驚いたような表情で真美を見て微笑み拍手をくれた。瑞希も微笑んで真美に拍手をくれた。


「第一位 河合瑞希さん」


 表彰式が終わってリハーサル室で衣装を片付ける真美に美香が声を掛ける。

「真美、頑張ったな」

 前回のコンクールの時と違い真美の表情は明るかった。

「なんか吹っ切れた感じか?」

 美香の言葉に、真美は首を傾げる様に考え、

「はい、何やろう……清々すがすがしい言うんかな。先生ありがとうございました」

「なんや、勝たせてあげれんかったな」

 首を振る真美。美香が真美を見つめながら聞く。

「河合瑞希に勝ちたかったんちゃうんか。河合瑞希は来年からシニア部門や」

「一緒に踊れて嬉しかったです。河合瑞希さんと同じ舞台で踊れることなんか、一生ないから」

「そんなことわからんで」

 微笑む真美の肩に美香が優しく手を置く。

 バレエスタジオのメンバーが真美たちのところにやって来た。

「先生、ジュニア男子一位のアルブレヒト踊った河合恵人かわいけいとって、河合瑞希の弟らしいで、姉弟で一位やで」

「真美ちゃん今年はジュニア一部門の中では最年少やろ、来年は河合瑞希もおらんし、一位やな。来年も出るんやろ」

 苦笑いする真美。

「まあ、考えとくわ」

「そうそう、芹沢佐奈せりざわさなさんの子、名前決まったんやて、瑠々るるちゃんやって。バレエさせる言うとったわ」

「そうなんや。でも、まだ先の話やろ」

「情操教育のために教室で寝かしとく言うてたで、バレエの曲ずっと聞かせとくて」

「何やねん、それ。騒がしい教室におったら、赤ちゃんにようないんちゃうんか」


 会場を後にしようと通路を歩いて行くと、たくさんの人が集まっていた。

 河合瑞希と河合恵人、そして、川村彩というダンサーが囲まれていた。長袖のTシャツにジーンズという出で立ちの瑞希。爽やかな風貌の恵人、ふわっとした見るからにお嬢様という感じの彩。恵人と話しているのはプリンシパル久宝優一くぼうゆういちだ。その周りにいる青山青葉あおやまあおばバレエ団の人達にも気品を感じる。

 遠巻きにたくさんのコンクール出場者やバレエ関係者が彼女たちを見ている。


 その団体から少し離れたところに京野美織きょうのみおり久宝くぼうすみれがいた。二人は真美に気付き微笑んで会釈した。

 真美が二人のところに挨拶に行く。


「約束通りコンクールに参加したのね。すごく上達してて驚いたわ」

 すみれが微笑む。美織も笑顔で頷く。

「ありがとうございます。瑞希さんには圧倒されました」

「なんだか、あなたの一位を邪魔したみたいね」

 すみれの言葉に、真美が大きく首を振りながら言う。

「そんなこと思っていません。瑞希さんと同じ舞台で踊れたことが嬉しくて、本当にこのコンクールに出場してよかったと思っているんです。本当に、二度とない貴重な経験ができました」

「そんな大袈裟な。燃え尽きちゃわないでね」

 と美織が微笑みながら言う。


 向こうの方から瑞希たちの声が聞こえる。

「恵人。あんた、カアヤと私の荷物運びなさいよ」

「ええ……人使いが荒いなあ」

 川村彩という女性が笑いながら

「いいよ、いいよ、そんなのげんさんにやらせとけばいいんだから。恵人は一位受賞者なんだから」

「たまたまでしょ」

 瑞希が笑いながら言う。

「たまたまって何だよ」

「たまたまでも、この部門では最年少で一位じゃない。すごいわよねえ」

「カアヤさん分かってくれるなあ」

 そんなやり取りを微笑みながらが見つめる真美。あの舞台の上で神様の様に見えた瑞希が普通の女子に見える。


 すみれと美織が真美に握手の手を差し伸べた。慌てる真美、二人と握手する手が緊張で震える。

「真美さん、素敵な踊りを見せてくれてありがとう。また、会えることを楽しみにしてるわ」

 すみれが微笑む。

「あなたのエスメラルダ好きよ。また会いましょうね」

 美織が微笑む。

「はい」

 真美が爽やかな笑顔で頷いた。


fin

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エトワールたち1989 コンクール snowkk @kkworld1983

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