オレンジミルク

 エリシャが仕事から帰ると、ミモザがやけに深刻な顔をして、ダイニングテーブルの椅子に座っていた。


「どうした、腹でも減ったか?」

「……エリシャ、僕ね、気付いちゃったよ」

「……何に?」


 ミモザはすっと、手元に置かれていたカップをエリシャの傍に寄せる。ミモザお気に入りの白熊柄のカップ。中身が入っているようで、白みがかったオレンジ色をしていた。


「これがどうかしたのか?」

「……あのね、オレンジジュースと牛乳を混ぜると、すごい美味しい」


 真剣な声音で紡がれる、多分あまり重要ではないこと。

 試しに飲んでみてよ、と言われ、じゃあと試すことにしたが……。


「あれ、牛乳ないぞ」


 自分用に新しく作ろうとしたが、エリシャが冷蔵庫の中を確認しても、オレンジジュースの紙パックがあるだけで、牛乳はどこにもない。


「えぇっ!」


 もう一パックなかったっけ、と声を上げるミモザに、ないならないんだよと、エリシャは冷蔵庫の扉を閉めた。


「牛乳買ってきたら試そうな」

「今買ってきてよ」

「疲れたから休みたい」

「……うっ」


 そう言われたらそれ以上続けられず、俯くミモザ。そんな彼の柔らかな頭を、エリシャはもふるように撫でた。


「明日、必ず買ってくっから」

「……うん」


 翌日、ちゃんと牛乳を買ってきたエリシャは、帰宅後にすぐ試してみる。思いの外美味しくて、ミモザと仲良く何杯も飲むのだった。


◆◆◆


 人狼と白熊の日常は、これからも穏やかに続いていく。

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人狼と白熊 黒本聖南 @black_book

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