転生者が多すぎる

黒澤 主計

どうやったら、素敵な恋ができるんだ!!

 アンケートを取ってみれば、明らかになることだ。


『もしも物語の主人公になれるとしたら、あなたは何をしたいですか?』


 それはもちろん、『恋』に決まっている。


 冒険したいとか、特殊スキルで無双したいとか、そんな答えも返ってくるだろう。でも、そう答える奴らでも、冒険と活躍の先で『かっこいい自分』がモテるのを期待している。


 つまり、『恋』とは異世界転生の最大の骨子。

 恋をしなければ、この人生は嘘だ。





 それなのに、どうしてだろう。

 僕は頭を抱え込み、大きく溜め息をついた。


 僕の名はマルタン。今年で十八歳。学生として生活するのもあと一年足らずで終わる。


 恨めしい気持ちで、教室の中をそっと窺う。

 全体として、この学校の女子のレベルはまあまあ高い。


 だが、そこに価値があるのだろうか。


(ごめんなさい。実は、前世での恋人がいて)


 入学して一年目に、好きになった子が現れた。隣の席にもなり、どんどん仲良くなっていく感触を得られた。


 そしてある日の放課後に、勇気を出して告白した。

 その時の答えが、よりにもよってそんなものだ。


 自分には、これという特殊な個性は存在しない。高い魔法力も剣の腕もない。

 それでも、この世界になら可能性を感じていた。


 美少女と出会い、素敵な恋愛ができることを。


(私も、別の世界で生きてた記憶があるの)

(実はわたし、この世界でも前に生きてたことがあって)

(前世は魔法使いだった。その時、一緒に冒険してた人がいて)


「ちくしょう!」と衝動的に机を叩いた。


 途端に、周囲の視線が向く。耳が赤くなるのを感じ、僕は顔を俯かせる。


 特別な何かになれると信じていた。特別な物語が始まると信じていた。


 それなのに。


 どいつもこいつも、出会う人間すべてが『前世』の記憶を語ってみせる。

 異世界転生が、ここでは全然レアじゃない。





(父さんと母さんは、前世でも夫婦だったんだよ)

(わたしね、生まれる前にも付き合ってた人がいて、また一緒になりたいと思ってた)


 両親のノロケ話程度なら我慢できる。

 だが、妹までが『転生者』としての記憶を語る。


 おかしいだろう、と顔を歪めずにいられない。


「前世で彼女がいなかった奴は、生まれた時から『詰んでる』ってのか?」

 ベッドに顔を埋め、僕は苛立ちを吐き捨てる。


 いっそ死にたい、とすら思ってしまう。

 でも、死んでも生まれ変わるのはこの世界。そこでも前世からの恋人がいない状態は継続され、同じく我慢を強いられる。


 逃げ場がない。

 だとしたら、早い内に行動しないと。





「マッチング魔法というものが存在しまして。登録者はかなりの数になっています」

 黒いローブ姿の女性に説明される。


「この板をお持ちいただき、基本的なプロフィールの他、趣味などをお書き頂くだけでいいのです。この板は他の全ての板と魔力で結合していて、相性が良いと判断された方の情報が通知されるようになっています」


「じゃあ、前世からの恋人がいない人を探すってのも、難しくはないんですね?」


「もちろんです。運命や絆を持たないことに悩む方は、かなりの数がおりますので」


 良かった、と胸を撫で下ろす。

 やっぱり、環境が良くなかっただけなのだ。


 たまたま、出会った相手に『前世既婚者』が多かっただけ。

 外の世界に踏み出せば、すぐにでも素敵な恋ができるはず。





 だが、現実は厳しかった。


「これっていう特技はないのね? 夢とか、やりたいこととかないの?」

「私、剣士と付き合いたいんだ」

「やっぱり、前世が平凡な人は転生しても平凡なのね」


 舌打ちすら出てこない。

 どいつもこいつも、『マッチング』というものに夢を見過ぎだ。無数にいる中から相手を探せるから、理想ぴったりの男が見つかると思い込んでいる。


「魂が腐ってやがる」

 そんなだから、前世でも恋人がいなかったんじゃないか。


「ちくしょう」と胸に鋭い痛みが走る。


 結局、性格のいい人間というのは、前世から心が綺麗だったのか。だからいい出会いとも巡り合えて、生まれ変わった後も幸せが約束されている。


 ここにもやはり、希望はないのか。





「私、ペネロープっていうの。よろしくね」


 ようやく、出会いらしきものを経験できた。

 二ヶ月以上もマッチング魔法を試した後、話の合う少女と知り合える。


 少々ぽっちゃりとした顔立ちだけど、笑顔が柔らかい。

 年齢も同じ十八歳。住んでいる家も近くにある。


 話してみると共通点が多くて、自然体で付き合える少女だと感じた。

 学校のない日はデートを重ね、一緒に町へ行ってカフェなどで過ごす。


 夕暮れ時に一緒に野原の道を歩き、ふと指先が触れ合う。彼女の方から手を繋いできた。

 女の子の手って、ものすごく柔らかい。


 この時間が、永遠に続けばいい。





「ごめんね。実は、前世で夫がいたの」


 幸せの絶頂から、あっさりと地面に叩きつけられた。


「将来はその人と結婚するだろうなとは思ってた。でも、まだ今の状態では知り合ってないし、色々と試してみた方がいいのかなとも考えたから」


 なんという、ことだろう。

 最高の相性を持つ、自分にぴったりの相手だと思ったのに。


 もっともあってはならない、唾棄すべき行動。

 その名も、『前世既婚隠し』。


 ちくしょう、と嘆くしかなかった。





 恋愛なんて、望んではいけなかったのだろうか

 今はとても、惨めで仕方ない。


「僕はもう、『婚期』を逃してしまっているのか?」


 なんというか、生まれる前の段階で。


「いやいや」と大きくかぶりを振った。

 もうちょっと、人生に希望を持っていたい。


 世界は広い。女性の数も多い。だから、まだ諦めちゃダメだ。

 世界のどこかに必ずいるはず。僕の理想の女の子が。


 僕との出会いを待っている、可憐なるシンデレラが。





「あなたって素敵。出会えて良かったです」

 今回の女の子は、本当に脈アリだと思った。


「だからあなたの魅力を更に高める、すごい『魔法薬』があるんです。分割払いも利くので、是非試してみて欲しいなあ」


 はい、詐欺でした。





「ごめんなさい。ちょっと、写真と顔が違ったかしら?」

 次は何か、おばあさんが出てきてしまった。


 魔法の力って怖い。『画像加工魔法』とかで、写真だと美少女だったのに。





「ごめんね。次の予約が入ってるから。今回はちょっとね」


 良さそうだって思ったんだけど、複数の男と掛け持ちらしい。「マッチングというのはそういうものでしょ?」と軽く言われた。


 まあ、そういうものなんですよね。





「ああ、恋ってどこに落ちてるのかなあ」


 草原の中を一人で歩く。最近はちょっと、目の焦点が合わなくなっていた。

 自然って綺麗だな、と癒しを求めようとする。


 でも、どうしても目が行ってしまう。


 木の枝の上にとまる小鳥たち。二羽で仲良く『つがい』になっていた。

 近くを舞うトンボ。二匹で連なっていた。

 足元では、カマキリのメスがむしゃむしゃと、美味しそうにオスを食べている。


 カップル。カップル。カップル。


「みんな、前世があったのかなあ。鳥も虫も、そこで彼氏や彼女がいたのかなあ」


 それなのに、僕にだけは彼女がいない。


 色とりどりの花が咲いている。風に揺られ、赤や黄色の綺麗な花が首を振っていた。

 こいつらも、誰かとカップルになっているのかもしれない。自分では一切動きもしない癖に、虫や風とかに頼って、運命の誰かと結ばれているのかも。


「ちくしょう! 他力本願生物が!」





 いけないな、と頭を冷やした。


 つい、花にまで怒りをぶつけたくなった。

 でも、彼らは彼らで必死なんだ。だから僕も、頑張らないといけない。


「次こそは、きっと」


 幸せを求め、次の相手と連絡を取る。





「セヴリーヌです。よろしくお願いします」


 大人しそうな少女だった。

 長い緑色の髪を持ち、黒目が大きい。引っ込み思案な性格らしく、カフェの向かいの席に座り、もじもじと落ち着かない様子を見せている。


 可愛らしい、と心が和んだ。


 ここ数ヶ月で、異性とのやり取りには慣れてきた。ここは男として、しっかりとリードしてあげないと。


 これまでの日々も、きっと無駄ではなかった。


 店を出て、二人で並んで道を歩く。

 また、指先が触れた。心の中がかすかにざわつく。


 よし、と決心し、思い切って手を握った。

 その瞬間に、ヌルリとした感触がした。


 振り向いてみると、緑の髪の少女は消えていた。


「は?」とマルタンは口を開く。


 隣で手を繋いでいるのは、巨大な緑色のカエルだった。


「ごめんなさい。変身が解けてしまって」

 言って、恥ずかしそうに顔を手で覆い隠す。


「は?」とまた声を漏らした。





 さすがに、運営には文句を言った。


 前世既婚隠しに続き、詐欺や老婆、モンスターまで登録している。あまりに管理がずさん過ぎる。


「申し訳ありません。お客様にはご迷惑をおかけしました」

 相談員の女性が何度も頭を下げる。


「お詫びと言ってはなんですが、最近になって発見された『運命結び』の儀式があるのですが、そちらをお試しになるのはいかがでしょうか?」


「え、そんなのあるんですか?」


「はい。最終的な出会いまでは、多少の時間はかかりますが」


 ふーん、とマルタンは鼻を鳴らす。


 運命の恋人を得られる儀式。

 そんな方法があるのなら、試さない手はない。





「最初に人形を用意する。そして中に、少量の米粒と、自分の爪や髪の毛を入れる」


 少女の姿のぬいぐるみを用意し、マルタンは腹部に素材を詰める。そして赤い糸で縫合。


「次に唱える。『君の運命の人はマルタンだ』と」

 続けて、包丁でぬいぐるみの体を刺した。


「あとは、隠れればいいんだよな。そうすると、人形が動き出す」


 儀式はこれで完了だという。


 恋人を持たずに死んだ女性の魂が引き寄せられ、人形の中に転生する。

 魂はやがて抜けていき、来世の肉体を得る。そして晴れて恋人になれるという。


「その子が生まれて成長するまで、十数年はかかる。でも、今のままよりはいいよな」


 今度こそ、幸せになりたい。





「これ、よく考えたら『一人かくれんぼ』じゃないか!」

 必死に息を潜めつつ、僕は悪態をつく。


 現在、草むらの陰に身を隠している。

 外には今も、刃物を手にした人形がうろついている。必死に獲物を探しているところだ。


 たしかに、この儀式は『運命』を結んだのかもしれない。


 だが、人形の中から自然に魂が抜けることはなかった。

 儀式を終えた直後、あの人形は勝手に動き出し、ずっと命を狙い続けてきていた。


 一人かくれんぼ。人形に魂を吹き込み、自分を追いかけさせるという呪法。


 なぜ、もっと早くに気づかなかったのだろう。


「これって、『来世』に連れて行かれちゃう奴だろ!」


 おそらく、人形から魂が抜けるのは、術者が命を落とした時。そうして晴れて、運命の恋人として仲良く転生できることになる。


 見つかったら、確実に殺される。相手もきっと、『恋』のために必死だから。


「あの運営、絶対に許さない!」

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転生者が多すぎる 黒澤 主計 @kurocannele

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