ここ掘れ、ワン、ワン!

もっちゃん(元貴)

第1話 父からの伝言

 ある日の朝、自宅の玄関の扉を開けたら、骨が落ちていた。


      「わっ!?」


 ん?なんでこんなところに骨が!?


 しゃがんでよく見てみると、どうやら骨じゃない、犬用の骨型ガムのようだ。


 なおさら、疑問だ。この近所に犬を飼っている人はいないからだ。


 「隆!そんなところで何してるの。早く学校に遅刻するわよ!」


 母親が、まだ門扉の開く音が聞こえていないのに気がついたのか玄関の扉を開き、声をかけてきた。


 「いっけねー!遅刻する!」


 立ち上がって、とりあえず母さんに、「母さん、なぜか犬用の骨型ガムが玄関前にあるよ!」と説明しながら、門扉を開け急いで高校に向かった。


 「あら?なぜこんなものが?」


 母親は、玄関にあった箒ではいて塵取りに入れたのだった。


          ◇


 その日の夕方


 隆が学校から帰宅の途につく。


 自宅の門扉を開けて、玄関に一歩踏み出したとき、なぜかそこには、骨型ガムを咥えた見慣れたゴールデンレトリバーが玄関前に居たのだった。


 「ラブ…ラブなのか?」



 「ワン!」


 どうして、俺が幼い頃、犬好き父親が飼っていたゴールデンレトリバーのラブがこんなところにいるのだろう?


 だって、もう天国にいって10年くらい経つと思うのだが…


 ラブが、玄関の前から中庭に向けて歩き始めた。


 「ラブ、中庭になにかあるのか?」



 ラブが中庭にある父親が手入れをしていた花壇の前に座って、口に咥えていた骨型ガムを置いた。


 ん?ちょっと待てよ。何か骨型ガムに書いてある。


 えっと、『ここ掘れ』とマジックで書いてある。ここ掘れ?どういうことだろうか。


 ふと、ラブを見てみると、「ワン、ワン!」と俺に向かって吠えたのだった。


 もう一回、骨型ガムをみて、ラブを見ると、


 また「ワン、ワン!」と吠えた。


 まさか、ここ掘れ、ワン、ワンってことなのか!?

 

 だとすると、花壇の下に何か埋まっている?



 そうなると、スコップかなにか土が掘れるものを持ってこないといけないな。


 踵を返して、倉庫に向かおうとしたところ、


 「隆、なかなか家に入ってこないと思ってきてみたら、何やってるのそこで?」


 母さんが、いつのまにか中庭が見渡せる廊下からこっちを見ていた。


 「うわっ!びっくりした!?なんだ母さんか」


 「それで、そこで何をしてるの?」



 「ほら!母さんラブが中庭にいるんだよ!」



 母さんに花壇の前にいるラブに対して指をさす。

 

 「ラブ?どこにもいないじゃない」



 「えっ?そこにいるじゃない…ってあれ?いなくなっている」


 振り返って花壇の方を見るとラブもいなし、骨型ガムも無くなっていた。


 「おかしいな。さっきまで、ラブがいたんだよ。花壇の前に、咥えていた、ここ掘れって書いていた骨型ガムを置いて、ワン、ワンって吠えたんだよ。だから花壇の下に何か埋まっているんじゃないかって思って…」


  

 「そんなわけないじゃない!何を言っているの!!ラブが亡くなって何年になるのよ!隆、受験で夜遅くまで勉強してるから疲れて幻覚をみていたのよ!そうに違いないわ!」


いつも穏やかな母さんが、急に廊下の窓ガラスを横暴に開け怒り口調になり、俺に対してそう言ってきた。なんだか顔の表情も怖い。


 母さんのその言動の迫力に負けて、なんだかさっき見たことが幻覚に思えてきた。


 「そ…そうかな。たしかに最近夜遅くまで勉強を毎日してるけど、もしかしたら疲れてるのかも…」


 「そうでしょう。何かの見間違いよ。さぁ、晩御飯にしましょう。冷めないうちに早く食べないと!」



 「わかったよ。今日の晩御飯なにかな〜」



 中庭から、玄関に向かう隆。



 「ちゃんと手洗いうがいをするのよ!」

 


 「はい、はい。わかってるって!そう言えば、朝、大事な話があるって言っていたけど、なんなの?」


 「あー、その話ね。晩御飯食べ終わってから話すわね。とっても、とーっても大事な話よ」



 「そうなんだ…なんなんだろう?まっ、いいか!お腹が空いたし、早くリビングに行こっと!」


 玄関の扉を開けて、隆は中に入って行った。



 ーバタン



 隆が家の中に入ったことを確認した母親は、なぜか花壇をじっと見つめていた。



          終

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