語部部 泉子さんのちょっとだけ怖い話 「豚バラのバラは薔薇色のバラ」

鳥辺野九

第5話 豚バラのバラは薔薇色のバラ


 薬萊縁樹やくらいえんじゅは何かにつけてバランスがいい。本人の人当たりの良さもさることながら、年齢、性別、趣味嗜好がバラバラに異なる人間とでも分け隔てなく付き合える女子高生である。たとえサプライズをネタバラシされても笑って許し、まばらに散らばった小さな幸せをコツコツと集め、醜悪な噂をバラ撒かれても気にせずマイペースで歩む人間である。だから本人が望まないイバラの道を歩まなくてはならない場合も……、ままある。




「首を絞められた人間が最期に視る光景、ですかあ?」

 秋保あきうメグルは飲みかけのカフェオレの温度が下がった、気がした。いくら余興の怪談話とは言え、楽しくお茶してる時にそんな話題を振られても、リアル過ぎて返答に困る。

「自分を殺めようとしてる犯人の顔っすか?」

 されど栗駒真夜くりこままやは気にしない。タピオカをずどどっと音を立てて吸引する。

「惜しいわ。頸動脈が絞められて目玉が鬱血すると水晶体に出血しちゃうのよね」

 縁樹のトークにエンジンがかかってきた。こうなっては誰にも止められない。彼女はかわいい後輩が口を挟む隙を与えず、一息に怪談のオチまで突っ走る。

「目玉の房水と血液が混じって水晶体がピンク色に染まる。そこに光が当たるとまるでラメが入ったようにピンク色に乱反射するの。その様子はまさしく一級品のローズピンク」

 真夜はどこにひとボケ挟もうかと、メグルはどこで突っ込んだらいいものかと、逡巡する二人を置き去りに縁樹は華麗にラストスパートを決める。

「すなわち、首を絞められたら視界は薔薇色に染まる、が正解でした!」

「確かめようがないじゃないですかー!」

「豚バラのバラは薔薇色のバラっすよ。そんなハッピーな首絞めないっす!」

 いやいや、両者ツッコミの方向性にバラつきがあるようで。

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……いや、否定なりノリツッコミなりしてください」

「見たことあるもん」

「えっ……」

「えっ……」




 ってなるから、縁樹とあんたたちはまだ会わせられないんだ。

 泉子先輩は熱い緑茶をずずと啜って言った。どうにも縁樹先輩の空気の読めなさは天下一品らしい。私はお汁粉の付け合わせの塩昆布を一口含んで返した。

「同じ語部部(仮)なら会いたいですよ」

「病気療養で休学中だからなー」

 のらりくらりと躱す泉子先輩。

「ちなみに豚バラのバラはアバラ骨肉のバラっすよ」

 真夜がぷっくりした唇をお汁粉で汚して言った。

「マジで?」

「マジで?」

「マジで」

 今日も平和だ。お汁粉が美味い。

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