第8章:『私たちだけの答え』

 卒業式を翌日に控えた春の午後。


 空央と月詩は、初めて出会った生物実験室で向かい合っていた。


「葉山くん、聞いたよ。論文が学会誌に載るって」


「うん。美咲さんのおかげだよ」


「え?」


「科学的な観察だけじゃなく、感性的な表現も取り入れたから。査読者の先生も、新しい視点があると評価してくれたんだ」


 月詩は嬉しそうに微笑んだ。


「私も、文学賞に応募した小説が入選したの」


「ああ、聞いたよ! おめでとう」


「これも、葉山くんの影響かな。科学的な視点を取り入れたことで、作品に深みが出たって、選評で書いてもらえたの」


 二人は、窓の外に広がる満開の桜を見つめた。


「来月からは、違う大学か」


「うん。私は文学部、葉山くんは理学部」


「でも、それでいいと思うんだ」


 空央は月詩の目をまっすぐ見つめた。


「だって、違う視点があるからこそ、お互いの世界を広げられる。それは、これからも変わらないと思う」


「うん。私もそう思う」


 月詩は、胸元から一枚の写真を取り出した。文化祭の日、二人で撮った一枚。生物部の展示と文芸部の朗読会、両方を終えた後の晴れやかな表情が写っている。


「私たちの出会いは、偶然だったのかな」


「いいや、必然だったと思う」


 空央は、机の上に置いてある一冊の本を手に取った。それは、二人で作った研究と文学のコラボレーション作品だった。


「これからも、一緒に新しい世界を探していこう」


「うん!」


 二人は、再び手を繋ぎ合う。窓の外では、桜の花びらが春風に舞っていた。


 それは、新しい季節の始まりを告げるように、優しく、力強く、二人の未来を祝福していた。


(完)


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【青春恋愛短編小説】蝶の軌跡と君の言葉 ~私たちの知らない世界の見つけ方~(約9,000字) 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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