第5話 異色のトーキッカー

 よお、今をときめくトーキックの伝道師だ!

 あ? いまいちカッコ良くないって?


 しゃーねーだろ!

 お前、今の日本の選手層の厚さ知ってる?


 俺には個性が必要なの、わかるかい? 


 いてぇ……まじですぐに手が出てくんの、悪いクセだぜ?


 ああ、はいはい。大学卒業後の話ね。


 俺は卒業後、運よく日本のクラブチームに拾ってもらった。

 大学二年目からの躍進だったから、実績が足りなくて契約はない可能性もあったんだが、またしても攻撃力不足に悩むチームからのオファーだった。


 なんで俺みたいなトーキック一本の選手を獲得しようと思ったんだろうな、な?

 まあいい、こうして俺はプロのサッカー選手になったのだ。


 プロの生活は厳しかった。

 今のリーグには、俺が中学高校とテレビで見ていた時の有名な選手がゴロゴロt嫌がるんだ。


 いくら得点力があるとはいえパスもドリブルも並以下の、トーキック一本の俺に出番がやってくる事はなかなか無かった。


 結局、俺は下部リーグのチームへ期限付き移籍に出された。早い話が武者修行だな。


 だがしかし、下部リーグといっても舐めてはいけない。彼らはトップリーグへの昇格を掛けて、必死に戦っている。


 妙な雰囲気に呑まれた俺は、不調に陥った。

 契約解除の四文字が脳裏にチラつき、変なプレッシャーを己にかけ続けるある日、待望のプロ初ゴールが生まれた。期限付き移籍二年目の事だった。


 このまま不振が続けば、翌年には契約解除もありえるギリギリでのゴールだった。


 これを切っ掛けに、なんとか土壇場で立ち直った俺はプロのやり方に適応し、いつかの大学リーグのように得点の量産体制に入った。


 結果的に下部チームは自動昇格を確定、俺は下部リーグの中で得点王に輝いた。

 翌年、俺はトップチームへ呼び戻される事が決まりトップリーグで古巣と試合をする事になるんだな。


 翌年のシーズン、俺は元いたチームでレギュラーの座をつかみ取った。

 トップリーグでもコンスタントに結果を出し続けた結果、俺は何と日本代表へと招集されたのだ。


 信じられるか、日本代表だぞ?

 中学高校と無名の選手が、何をどう間違ったら日本代表に選出されるんだ?


 俺がトーキックするたびに、会場が大盛り上がりなんだぞ。夢なら覚めてくれよって何度思ったことやら。


 先日のサウジ戦じゃ、相手の試合を観に来てた石油王から握手を求められたんだぞ!?

 ヘイ、クレイジートーキッカー!! って呼び止められた時の、俺の気持ち分かる? クレイジーだってよ?


 まあこれで話す事は全部話したと思うぞ。

 俺は、結局トーキック一本でここまでのし上がってきたんだ。


 あ、そういえばこのインタビューの記事って何になるんだ?


 え……本?

 ま、まじかよ……俺の自伝みたいなのが出るのは、さすがに恥ずかしすぎるって……。



 ま、まあいい。

 それで、それでタイトルは何て言うんだ?


 ふ、ふ~ん?


 異色のトーキッカー、ね。


 まあ、いいんじゃないの?

 今日もお前の前でゴール決めてやるから、期待しとけよ!!


 ◇


 そう言って、インタビューを終えるとさっさと部屋を出ていった彼。

 今日は無理を言って試合前のアップ中に時間をとってもらった。


 彼はブロックするのもためらうほどの、強烈なトーキックしか打てない異色のサッカー選手だ。


 私は中学生の頃から「彼はもしかしたら、とんでもないことをやってのけるんじゃないか?」と薄ぼんやりと思っていた。


 中学を卒業してから疎遠になってしまったが、こうして再開することが出来た。立場は変わってしまったものの、私と彼の関係は変わらない。


 あ、今シュートを決めました!!

 試合がこう着状態の中、両チーム通じて初得点です!!


 値千金の一点は、彼のつま先から繰り出された。


 日本代表にまで上り詰めた異色のトーキッカーは、今日もゴールとスタジアムを揺らすのだった。私は取材そっちのけで、彼のプレーに目が釘付けだ。



 さて、数奇なサッカー人生を送ってきた彼の半生を、本著にて詳しく解説しているのでもしそこのあなたが彼のファンであれば、バイブルとしてぜひ一読いただきたい。


 彼はおだてるとすぐに調子に乗るので、私は口が裂けても言わないが、彼は活躍の場を欧州に移すと確信している。


 いつか、いつの日か……彼は異色のトーキッカー、ではなく「つま先のファンタジスタ」と呼ばれる日が来るのではないかと、そう思っているのだ。


〈完〉

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