第4話 トーキック上級

 よう、何かお前の顔を久しぶりに見た気がするな。


 あ、おい。今嫌そうな顔したろ。あーあ、いけないんだー。

 そんなんじゃ俺、話をしたくないなぁ~~~?


 はい謝って?

 は、ごめんで済むなら――すんません、自分っ、チョーシ乗りましたッ!


 ――話します話させていただきますとも!


 流石に覚えてるって……大学の話ね。

 ああ、俺の大学生活は思い返せば色々あったよ。


 その中から強いて言うならば、初の一軍スタメンを勝ち取った試合の事だろうな。

 なんっつーか、そん時の俺は絶好調だったんだよな。


 少しフワフワしてるっつーか、大して力を入れてるわけじゃないのに身体のキレが良くて、どこからボールが来ようが一瞬で反応出来るって感じ?


 んーーー。ゾーンとはまた少し違うような気がするけど……例えるなら、夏合宿とか体幹トレーニングで極限まで身体を追い込んだ後の全身の筋肉がゆるゆるになった虚脱感と、異様に冴えた頭がごちゃ混ぜになった感じ?


 え、分からん?

 うーむ……それで伝わらなかったら無理だ。お前、俺の現代文の成績知ってるだろ? 人間には限界ってもんがあるんだ、諦めろ。


 まあとにかく、俺はその試合で爆発した。

 比較的弱い大学相手の交流戦だったけど、一試合で五点も決めてやった。


 そしたら翌日から、俺の生活は天と地がぐるりと入れ替わったように変化したんだよ。俺はなんと大学のリーグ戦の交代要員に抜擢されたんだ。


 うちの大学は下から数えた方が早い順位だったが、俺は前の試合での活躍を買われてスタメン投入、そして大差で勝った。

 俺は三ゴール二アシストと、全得点に絡む大活躍だ。


 今までうまくかみ合わなかった歯車がカチリと音を立ててハマって、動き出したのが分かった。


 その年の大学リーグ戦は、過去最高順位で終える事が出来た。

 自画自賛にはなるけど、その躍進は俺の力が大きく影響を及ぼしたと思っている。


 翌年、調子の良い俺はシュートを打って打って打ちまくり、何と大学リーグは四位フィニッシュながら、得点ランキングで二位をマークする事が出来た。


 快挙だ。

 大学リーグの順位もだが、俺のブレイクは大学側としては予想外だったらしい。



 監督にもコーチにも何度も言われたよ。


 お前は遅咲きが過ぎる、ってな。


 大学二年生で初めて全国に名が知れ渡るほどのブレイクをする選手は、監督もコーチも見たことがなかったらしい。


 俺も自分の事ながら遅咲きだと、そう思った。

 小学から数えてかれこれ十四年。


 俺はトーキック馬鹿だったし、両親が俺の挑戦を許してくれたから今がある。だけど、どこかでボタンんの掛け違いが起きていたら、俺は普通のサラリーマンとして生活していたんじゃなかろうか。


 有り得たかもしれない話はいらん?

 ったく、贅沢なヤツだな……。


 それじゃあいよいよ次が最後だぜ?

 次は、俺が大学を卒業した後の話――つまり、現在の話だ。

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