ほろ酔い幻想記【カクヨムコン10 短編創作フェス③「つま先」】

結音(Yuine)

魔女のりんご

「ねぇ。白雪姫が食べた毒リンゴってさ。結局、死ななかったわけじゃん。毒って、何だったの?」


「ん?」


「ってかさ。仮死状態っていうの? 白雪姫、寝てただけじゃん」


「まぁ。たしかに」


「っていうか、リンゴをのどに詰まらしてただけってせつあるって。ww


「え?!

 白雪姫、リンゴかじって、そのまま飲み込んじゃったの? 

 アホやん。ちゃんとまな!」



「それにしても。

 ガラスのひつぎなかおって、よう酸欠さんけつなんかったね」


「いやいや、すでにリンゴのど詰まらせて酸欠状態やったから」


「んで。王子様のキスで目覚める。

 ってことは、王子様のキス、バキューム?!」


「はっ?! どういうこと?」


「詰まってたリンゴ、吸い上げたんやないの?」


「……。

 どこにそんなこと、書いてあるんや」



「えぇっと。なになに?

 王子様がガラスの棺に近づいた時、そのつま先が棺に触れて、白雪姫の体が揺れて、喉に詰まったリンゴが取れて……


 って、コレ、王子様、蹴ったんやないの?!

 コレ、蹴ったってことやんね?」


「知らんし」



 とある男女ふたり

 リンゴのお酒を飲みながらの、他愛もないおしゃべり。




「ほんで。わたしの王子様は、キスしてくれんの?」


「ん」


 リンゴ味の口づけは、甘くて濃厚。

 

 彼女の頬は、リンゴよりも赤くなる。



「あんたの毒にやられたから。

 このまま、ずっと おってな」


 彼女の白い指先が、赤く塗られた爪先つまさきが、彼に触れる。



 ほどよく酔ったリンゴの味が、

 今宵、

 二人をひとつに結ぶ。











 それは、とても甘い毒。











 そうね。リンゴは、罪の味かも。












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