第6話森の中での対峙
ハクとデュークは、なにも言わずに見つめ合っている。
…やがて動いたのは、デュークの方だった。
「ぼくから、提案があるんだ」
「…」
「ぼくと友達にならない?」
「はぁ!?」
「何言ってんだよ!」
真っ先に反応したのはグレイシアとルオンだった。
「…何か、理由が?」
ランディが警戒しながら聞く。
「理由も何も、彼のような素晴らしい存在がぼくの友達にいたら、ぼくはもっと強くなれる。宇宙征服にまた一歩近づけるじゃないか!君、宇宙最強のハク君だろ?そうと分かったならすぐにでも争いをやめて、手をとり合おうじゃないの!そうしたら、もうウォーラは追わないと約束するさ」
「清々しいほど自分勝手だな」
ハクがバッサリと切り捨てた。
「そうさ。王族とはそういうものだよ」
「じゃあグレイシアとルオンは特別という訳か。私は恵まれていたのだな」
やはり私は、このデュークという男が好きになれない。
どちらかというと苦手、キライな部類のようだ。
「もし、私が君の友人にならないと言ったら、ウォーラをどうするつもりだ」
「もちろん、利用してから始末するよ」
ウォーラが怯えたようにハクにくっつく。
それをなだめながら、ハクが言った。
「そうか。では…仕方ないな」
「っ!ダメですハクさん!」
「ハク!?」
「そんな不公平な条件飲むなんて…!」
「何考えてんだよ!?」
「自分を犠牲にしようとしないでください!」
「何を言っているんだ、君たちは。私はこの男と友人になるつもりなど一切ない」
「じゃあ…ウォーラを差し出すと?」
「断る」
「…え?どうするつもり、ハク?」
「友達になるのもイヤ、ウォーラを差し出すのもイヤなんて、ハク君はわがままだね」
「お前だけには言われたくない」
「じゃあ、どうするっていうのさ」
「こちらとて無策で条件をつっぱねた訳ではないからな。ちゃんと策はある」
「どんなのどんなの?」
ピュートが興味津々で聞いてくる。
「一対一での戦いだ。それなら文句言えまい」
「…っ」
ウォーラが心配そうにハクを見た。
「もし私が勝てばお引き取り願おう。そしてお前が勝てば、私を友人にするのでもウォーラを連れて行くのでも、好きにすればいい」
まぁ、とハクは付け加え、ウォーラを自分の方に抱き寄せた。
「何がなんでもウォーラを渡すつもりはないけどな」
「おー!ハク様カッコいいです!」
「頑張れー!ハクー!」
ウォーラは顔を真っ赤にして固まっている。
「ん?どうした、ウォーラ?顔が赤いが…熱でもあるのか?具合が悪いのなら、休んでいた方が…」
「なっななななんでもありません!大丈夫です!」
思わず大声が出てしまった。
顔を赤くするウォーラに、ハクは首をかしげるばかりだ。
見かねたルオンが、ウォーラに声をかける。
「おい、チビッ子、ハクは無自覚でこういうこと言うんだ。許してやってくれ」
「そうそう。真面目がゆえに、ね」
「そこがハクの良いところでもあるんだけどね!」
「でもそのせいで、軽い誤解を生むんですよね」
「…ハクさんって実は、結構戦犯だったりするんですか?」
「なんでそうなるんだ!?」
「君たち、仲良いねぇ~」
デュークが半ば呆れながら言う。
…いや、それは本当に呆れていたのだろうか。
少なくともハクの目には、うらやんでいるように写った。
そのうらやむような視線は、かつての自分が誰かに向けていたものだ。
そう思うと、デュークが少し可哀相に見えてきた。
ハクの中で、2つの気持ちがぶつかり合う。
ウォーラを狙う敵だと認識するべきか、それとも可哀相な存在として認識するべきか。
…激闘の末、勝ち残ったのは敵認識だった。
少し気の毒だが、今はウォーラが危険にさらされている。
仲間のことを第一に考えるハクには、ウォーラを守ることが最優先事項だった。
「…戦うとは言え、この場所はいささか狭い。ウォーラ、この辺りに森とかないか?」
「あ、森ならあります!こっちです!」
ウォーラはハクの手を引いて歩いた。
「すごいわね、ウォーラちゃん。目が見えないのに分かるの?」
「はい!昔、よくこの辺りで遊んでたんです。それで、ここ周辺はなんでも分かるようになったんですよ!」
得意げに、ウォーラは言った。
そよそよと風がふく。
鳥が飛び、花が揺れる。
これが、この星のあるべき姿なのだろうか。
そう思うと、この平和を簡単に過去のものにしてしまったあの大地震はやはり恐るべきものだ。
「…いや、それは存在も同じか…」
ハクは誰にも聞こえないようにそうつぶやいた。
ウォーラが、不思議そうにハクを見つめている。
ハクがその視線に気がつくことはなかった。
やがてハクたちは木漏れ日あふれる森へとやってきた。
「すごくキレイなところね!」
「確かにここで遊んだら楽しそう!!」
「近所にこういうところがあるのは良いですね!」
「なんでこいつら敵目の前にしてこんな平和な話できるんだよ…」
「同感だ。…だが、それが彼らの良いところだな」
「何言ってんだよ。オレたち、だろ?」
当然のようにいうルオンを見て、ハクは苦笑した。
「あぁ…。そうだな」
「?何笑ってんだ?」
「何でもない。…グレイシア、ウォーラを頼む」
グレイシアの方にウォーラを連れて行き、手を離そうとしたその時
「あ、あの、ハクさん」
ぎゅっと、手を握られた。
「?」
「ご、ごめんなさい。こんな危険なことに巻き込んでしまって。私1人でどうにかできればよかったのに…」
「…」
ハクはウォーラに目線を合わせるように片膝をついて、言った。
「君は悪くないだろう。謝るんじゃない。それに、1人でどうにかできなかったから私たちを頼ってくれたのだろう?」
「…はい」
「ありがとうな」
「え?」
「助けを求めてくれなければ、私たちはどうすることもできない。それに、助けを求めるということはとても勇気がいることだ。実際、私は助けを求めることが苦手だしな。いいか、困ったときに助けを求められない存在になるな。困るのは自分だ。私たちを信じて、助けを求めてくれてありがとう。君は立派だ」
「~~~~~~~!!!」
ウォーラは何とも言えない表情になった。
「なんだ?どうした?」
「もー!ハク!乙女心いい加減分かってあげなさいよ!一体何年生きてるの!」
「いや…どれほど長く生きようと分からないことの1つや2つはあるだろう。乙女心とは、何より一番分かるのが難しい感情だぞ」
「それを分かってあげるのが大切なの!」
「訳が分からん…まぁとにかく、行ってくる。安心していろ、ウォーラ。君には傷1つ負わせない。絶対に守る」
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