第7話ハクの大ピンチ!?
ハクは淡く笑って、ウォーラから離れた。
ウォーラを背にしたハクの顔は、もういつもの冷徹な彼に戻っていた。
いや、それはもしかしたら、仲間と自分を守るための彼の心の鎧なのかもしれない。
どのみち、もう確かめるすべはない。
ハクとデュークの周りの空気は張りつめていた。
蚊の吐息も許さないほど鋭く、彼らは見つめ合っている。
ハクの指先が一瞬動いた瞬間に、デュークが動いた。
デュークの鉈を、ハクが刀で受ける。
よく見ると、デュークはとんでもない量の武器を持っていた。
鉈の他に、ナイフや小刀、エアガン、ピストルまで。
なぜこの世界には銃刀法違反というものがないのか。
いや、そんなものがあれば私含めて全員捕まってしまうか…。
なーんて考えてる場合じゃない。
この男、思っていた以上に強い。
キン!ガキン!!
刃物と刃物がこすれあう。
こすれあって火花を散らす。
ハクはデュークの攻撃をかわし、受け流しながら静かに問いかけた。
「なぜ、私と友人になろうとしているんだ?」
「さっきも言ったじゃないか。ぼくはもっと強く、有名になりたい。宇宙征服のために強くなりたいって…」
「違う」
ハクの刀が、デュークの顔面スレスレをかする。
「え…?」
「少なくとも私の目には、君のその言葉が本音には聞こえない。一体君は何におびえ、何故自分の本音に蓋をしているんだ?」
「…っあんたには分からないだろ」
吐き捨てるようにデュークが言った。
グレイシアたちが警戒体制に入る。
デュークは見る限り、まだ青年と言っても全然おかしくない。
まだ、大人になりきっていない彼が、一体どんなことをいうのか…。
「あんたは知らないだろ?期待されて、期待されて、その重すぎる期待に応えようともがく苦しさを。本音なんか言える訳ない。言い方だって分からない。そんなこと、誰も教えてくれなかった」
デュークの鉈が、ハクの前髪の先をかすった。
あぁ、やっぱり。
ハクは何も言わないまま、鉈を受け、流した。
「オレだって自由に生きたかったよ。でも、オレにそんな道はなかった。だから親父の思うままに生きた。ただ、それだけだ」
デュークが放つ、真っ黒に染まった憎悪を、憎しみを、ハクは痛いほど感じていた。
(やはり、強すぎるとダメなのか…)
ハクの顔が一瞬だけ、苦しそうに歪む。
「…分からないだろ。あんたには」
怒りをただひたすらにぶつけてくるデュークの顔は、完全に憎悪に満ちていた。
…ついに、ハクが反撃体制に入った。
「分かるわけないだろう。君のことなど」
「っ!」
「今さっき会ったばかりなんだぞ。しかも自分のことや目的はほとんど何も話そうとしない。そんなので、君のことが分かるわけない」
ギラリと、両方の目が光る。
「…!」
デュークとハクがにらみ合う。
ウォーラはそれを、苦しそうに見ている。
「…おい、チビッ子、不安なのか?」
「…」
ルオンに聞かれても、ウォーラは何も言わず、ただうつむいている。
「ハクのこと、心配なのか?」
「はい…」
「なーんだ、そんなことか」
「え」
「多分姉上から聞いたと思うけどな、あいつ、めちゃくちゃトラブルメーカーなんだ。あ、ちなみに巻き込まれる側な」
「は、はい…?」
「だからトラブルに巻き込まれるが日常になってて、トラブルに巻き込まれない日は逆に驚いてめっちゃ動揺するんだよ」
「そ、それはなんというか、その…お、お気の毒様…ですね…」
「だよな~。ハハハッ」
ルオンは笑っている。
「ウォーラ、心配しなくても大丈夫だよ!ウォーラは優しいんだね!」
「へ?いや、そんなことはないと思いますが…」
「そんなことありますし、これがいつものことなんですよ。ウォーラ様」
ランディがポンポンとウォーラの肩をたたく。
「これがいつものことって、ちょっと異常だと思うけどね」
グレイシアが笑い半分呆れ半分でそう言った。
そんな様子を聞き流しながら、戦闘中のハクはクスリと笑う。
が、それがデュークの癪にさわったみたいだ。
「何笑ってるんだよ。そんなにオレの人生がおかしいか?」
「あ、いや、すまない。そういう意味じゃ…」 「…」
(マズイかもしれない…怒らせたか…?)
「…もう知らない。バカにするならしとけよ」
急に、デュークは銃のようなものを取り出した。
こちらに向ける…かと思いきや
バン!
デュークは自分の真横に向かって銃の引き金を引いた。
頭の中が急に冷えていく。
デュークが銃口を向けた先…それは
「ウォーラ!!!」
気がつけば、ハクは駆け出していた。
弾丸がおそろしい程遅く見える。
…否、違う。
あれは弾丸じゃない。
エアガンだ。
エアガンとは、空気を圧縮して打ち出す銃のこと。
ほとんど殺傷能力はないものの、当たり所が悪ければ当然死に繋がる可能性だってあるし、怪我もする。
それになにより
この銃はノックバックが通常の銃とは比べ物にならないのだ。
もし、もしあれが最大出力だったら?
ウォーラは兵や軍隊のように訓練されている訳じゃない。
普通の、ごく普通の女の子だ。
エアガンの弾丸なんかに当たったら、間違いなく吹き飛ばされて怪我をするだろう。
『君には怪我ひとつさせない。絶対に守る』
ほんの数分前に、自身が放った言葉があたまに浮かぶ。
約束破りだけは、絶対に本当にごめんだ。
ハクは弾丸とウォーラの間にギリギリで滑り込んだ。
ドッ!!!
鈍い音が、静かな森に響く。
「っ!ハク!!!」
グレイシアの短い悲鳴は、ハクの耳に届かなかった。
ハクはウォーラを守るように抱きしめ、吹き飛ばされる。
エアガンはやはり最大出力だったようだ。
とんでもない距離を弾き飛ばされたハクとウォーラは、巨木に体を打ちつけられてようやく止まった。
「うぅ…。!ハク…さん?」
ハクの腕から抜け出したウォーラが、そっとハクの名を呼ぶ。
けれど、その声に返答はない。
「ウォーラちゃん!」
「おいハク!」
「大丈夫!?」
「お2人とも、お怪我は…!」
「わ、私は大丈夫です!でも…でもハクさんが!」
ハクは倒れたまま、目を閉じて動かない。
「ハク、ハク!しっかりして!聞こえる!?」
「おいこらハク!いつまでも寝てんじゃねえ!子供を心配させるとか、お前が一番やっちゃいけねぇことだろ!」
「ハク、弾き飛ばされたときに、絶対自分が下になるようにしてたよね」
「木にぶつかった時も確か、ウォーラ様を守るように…」
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