第8話闇の中の光

 「ごめん…なさい…。私のせいで…」

震えるウォーラの声が痛々しい。

ハクの手の上に、ボロボロと泪が落ちた。

こんな時、泣くことしかできない自分が憎い。

戦うこともできずに、みんなを危険にさらす自分に腹が立つ。

目が見えない、というだけならまだ許せた。

だって、そういう存在は、私以外にもいるはずだから。

けれど、未来が視えるというのはいくらなんでも話が違うだろう。

この力のせいで、私は何度誰かを怖がらせ、危険にさらしてきた?

存在を傷つけるためにこの力があるのなら…こんな力、私はいらない。

ほしくない。

唇を噛みしめ、前を向いたその時、たくさんの記憶と共に、目の前が真っ白になった。

「えっ!?」

今まで何も見えなかったのに、どうして急に?

驚いているのはウォーラだけではないようだ。

「ウォーラちゃん!?」

「な、なんだ!?どうしたんだ!?」

「どこかいたいの!?」

「大丈夫ですか!?」

流れるように舞い込んでくる記憶の中で、私は見た。

この後何が起きるのか、どんなことになるのか、デュークがどのような攻撃をしてくるか。

残念ながら、ハクさんがどうなったのかは分からない。

記憶の流れが止まった時…

「え…?」

「ど、どうしたの?」

「目…が…」

「目、目がどうしたんだ!?」

「見えるん…です。分かる…分かる!ちゃんと見える!!!」

「ほんと…なの?」

「まさか…まさかこんなことって…!」

「ウォーラちゃん!」

ぎゅっと、グレイシアがウォーラを抱きしめた。

「君たちねぇ…まだオレいるんだけど?」

ゆっくりと、デュークが歩いてきた。

ルオン、ランディ、ピュートの3人が即座に立ち上がり、デュークをにらむ。

(ハクがダウンした今、オレたちでこいつを倒せるのか…?)

「あー…ハク君、倒れちゃったんだ。じゃあ、ぼくの勝ちってことでいい?」

「待て。ここからはオレたちがお前の相手をする」

「ええ?ぼくはハク君と戦ってたんだけど?その彼はもう倒れた。つまり負けだ」

「うるせぇ!あんな負け方あるか!完全にひきょうじゃねえか!ハクはこのチビッ子を守って倒れてんだ!だったらハクの代わりはオレたちが引き受ける!」

「…オレたち?」

「もちろんぼくらも戦うんだよ!」

「ぼくら4人の力を合わせても、ハク様には劣るかもしれませんが…」

「それでもやるしかないじゃないの!」

言い張る4人を、デュークは笑った。

「作戦もないのに?負け戦を挑んでるってこと、分かってる?」

「作戦ならあります」

それまでずっとハクのそばでいたウォーラが立ち上がって言った。

その目に、一切の濁りはない。

「ウォーラ?」

ルオンがポツリと言った。

「ほんの少しだけ、時間をくださいませんか?」

「…いいよ。なんだか面白そうだ」

「皆さん、少しいいですか?」

ウォーラが4人を集め、ゴニョゴニョと作戦を伝える。

「…へぇ、面白そうじゃねえか」

1番に賛成したのはルオンだった。

「ルオン様、本当に大丈夫ですか?自分で考えておいて何ですが、この作戦、相当危険ですよ」

「オレは危険な時ほど燃えるんだ!とはいえ、さっきの配分じゃぁちょっとバランスわりぃな…。こうすりゃどうだ?」

お次はルオンが4人にゴニョゴニョと作戦を伝える。

「え!それ大丈夫なの?」

「グレイシアさま、ぼくらのことナメすぎだよ!」

「そのくらいなら朝飯前です!」

「ご飯は食べてからの方が良いと思うんですけど…」

「ウォーラ様、そうい意味じゃないですって!」

「もう雑談してる時間はないと思うよ。そろそろ…」

「ねぇー!まだー?」

「ほら」

「ならそろそろやりますかぁ!」

グレイシアが伸びをした。

「…見ていることしかできなくて、悔しいです…」

「なーに言ってんだ。お前は作戦を考えてくれた。それで十分だ」

ルオンはウォーラの頭をぐりぐりとなでて、くるりときびすを返した。

「行くぞー。早く帰りてぇんだ」

「同感よ。正直もう疲れちゃったわ」

「グレイシアさまは一体何に疲れたの?」

「ピュート、それは言っちゃダメだって!」

「…どうか、どうか誰も怪我しませんように…」ウォーラは4人の背中を見つめながら、祈るようにつぶやいた。

作戦が失敗しないことだけを、願っていた。

それぞれの武器を構えた4人は、二手に別れて走り出した。

ランディ、ピュートペアがデュークの正面に立ち、グレイシア、ルオンペアがデュークの後ろに立つ。

「なになに?急に挟み撃ち?」

「早く始めたいって言ったのはそっちでしょ?」

「ご要望に応えただけですが、何か?」

ランディとピュートが、挑発するかのようにデュークの周りをちょこまかと走る。

「…確か君たち、4人いたよね。残りの2人は?あのめちゃくちゃ怖い王女様と、その弟」

「ここにいるわよ!」

「見失ってんじゃねぇ!」

グレイシアの矢と、ルオンのパンチが同時に後ろから迫る。

「っ!」

なんとか身をひるがえしてよけたものの、デュークの顔に余裕はない。

ウォーラの作戦通りだ。

まず、ランディとピュートがデュークを挑発して、気を引きながら戦う。

相手がランディとピュートに気を取られている隙に、グレイシアとルオンが後ろから攻撃する。

まぁ、いわゆる数の暴力というやつだ。

少々ひきょうかもしれないが、先にひきょうな手を使ってきたのは向こう、ということで全員一致で決定した。

ランディとピュートに気を取られている隙にグレイシアとルオンが攻撃する。

そっちに気を取られた時にランディとピュートが攻撃を入れる。

名付けて『オトリ作戦』だ。

ウォーラはそれを、ハラハラとした様子で見ている。

私が視た未来では、デュークが反撃していた。

だから未来を変えた。

私が入ったことで、未来が変わった。

ただ…1つ気がかりなことがある。

未来は、存在の思いで変わるのだ。

デュークの行動1つで、誰かが怪我をするかもしれない。

そして何より、このまま作戦通りに物事が進むとは思えない。

…ウォーラの勘は、見事に当たってしまった。

「…っ!くっ!!」

4人に追い詰められ、余裕がなくなったデュークはウォーラの方に走ってきたのだ。

「えっ?」

「ウォーラよけろ!」

ルオンがそう言うものの、ごく普通の一般庶民のウォーラが避けられる訳がない。

目の前には鉈。

逃げ場はない。

…怖い…!!!

ウォーラが恐怖のあまり固まったその時だった。


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