第4話ウォーラの想い

 ハクたちが雑談をしていたその頃、アナウンスを終えたグレイシアはウォーラと一緒に客室でティータイムをしていた。

牢に入るのをグレイシアが拒否したのだ。

「ん~、ここのお茶もなかなか美味しいわね。ランディのお茶には劣るけど」

「あの…グレイシア様…」

「ん?どうしたの?」

「大丈夫なんですか?その…に、逃げなくて」

「そんなことしないわ。だって、わざわざ合流地点まで連れて行ってくれているのに。それに、もうすぐハクが助けに来てくれるわ。お姫様は、待っているだけで十分なのよ」 

グレイシアがイタズラっぽく笑って言うものの、ウォーラの顔から不安の色が消えない。

「…」

「そんな心配そうな顔をしないで。ウォーラちゃん。大丈夫よ。ハクは強いの。強くなければ宇宙最強なんて名乗れないわ」

「グレイシア様は、ハクさんと出会って長いんですか?」

「ええ、ランディとピュートに出会う前から一緒にいたから…10年くらいかしら?」

「…はい?」

「私ね、エルフなのよ。ハクは獣人族っていうすっごく長生きの種族で。確か、1歳年取るのに100年かかる…だったかしら?存在と違って成長が遅い種族ってこと。存在と似たような姿をしているのに、獣の耳としっぽがついてるの。だから、付き合いが長いのよ」

「へぇ~、そうなんですね!」

「ハクはあまり話さないし、笑わないからよく冷たい存在って思われがちなの。でも、本当はすっごく真面目で優しくて、綺麗なのよ。まぁ、その優しさが彼自身を苦しめているのだけれど…」

「え?」

「いえ、なんでもないわ」

「その、ハクさんって、あの戦艦ルーンネトラの主様なんですか?」

「えぇ。そうよ」

「え、えぇえ~!?」

「だから言ったじゃない。ハクは宇宙最強だって。あのデュークって存在もどうかしてるわよね。ハクに喧嘩売るなんて。知らないって怖いことだわ」

「…グレイシア様…は、私のこと、変に思わないんですか?」

「どうして?」

「だ、だって…急に押しかけてきて未来が視える、何て言って、こんな危ない事に巻き込んで…め、迷惑とか」

「ないわね」

グレイシアは即答した。

「…!」

「私ね、ハクと出会う前はすっごく平和に暮らしてたの。ルオンと2人でケンカしつつもやって来たのだけれどね。…何て言うのかしら。毎日毎日、同じことの繰り返しなのよ。朝起きてご飯食べて、そうじして仕事してたまに出掛けて…ずっと、ずーっとそんな暮らしをしていたのよ」

「…」

「でもね」

グレイシアは懐かしそうに笑って言った。

「ハクと出会ってから、全部ぜーんぶ一転しちゃった」

「全部?」

「えぇ。全部。笑っちゃうわよ、本当に。ハクと一緒にいるようになって、トラブルに巻き込まれることが増えてね。一体何度死ぬかと思ったことか」

ポカンと口を開けるウォーラを見て、グレイシアはおかしそうに笑った。

「ごめんなさいね。変って思うわよね。私も変だと思うわ。でもね、すっごく楽しいの。毎日同じことをしていたとはいえ、平和だったあの頃と比べたら格段に忙しくなった。悲しいことだってあったわ。でも、それでもいいの。私は、トラブルに巻き込まれるこの毎日が、好きなのよ。ハクと出会って、ランディとピュートにも出会って、ウォーラちゃんともこうして知り合うことができて…きっと私は、これからもたくさんの存在に会っていくと思う。それが、楽しみなの」

グレイシア様は笑った。

私は目が見えない。

でも、声は聞こえる。

感情は伝わる。

グレイシア様の声はとても楽しそうで嬉しそうで、喜びに満ち溢れていた。

「グレイシア様は、ハクさんのこと、好きなんですよね」

「え!?あ、いや、その………えぇ。好き。ほんとに大好きよ」

…あぁ、やっぱりそうだ。

まだ会って間もないけれど、それでもよく分かるくらいグレイシア様の気持ちが伝わった。

グレイシア様は、本当にハクさんのことが好きなんだ。

…なら。

「ステキじゃないですか!ハクさんとグレイシア様ならきっと上手くいきますよ!」

本心でもあったし、悲しさを誤魔化すための言葉でもあった。

初めて彼に会った時、私は彼に心を奪われた。

他の存在とは違う、優しい心をしていた。

誰にでも態度を変えず、私が何を言っても全て肯定してくれた。

そんな存在、生まれて初めて出会った。

両親でさえも、信じてくれることはなかったのに。

こういうのを、一目惚れ、とでも言うのだろうか。

出会った瞬間、彼のことを好きになってしまった自分がいた。

…でも、2人の間に割って入ることなど、私にはできない。

彼らと私は違う。

仲良くしてくれるだけで十分だ。

「頑張ってくださいね、グレイシア様!応援してますよ!」

自分でも悲しいくらいに明るい声が、部屋に響いた。

「ありがとう、ウォーラちゃん。ウォーラちゃんの恋も、絶対上手くいくわ。恋はいつだって、どうなるか分からないものよ」

そう言われたウォーラは困ったように笑ってただ一言、ありがとうございます、と言った。

「…あのー…お姫様方?もうすぐ着くんだけど…」

「あらそう。すぐ行くわ。お茶、美味しかったから」

「アーヨカッター」

「ウォーラちゃん、行きましょうか」

グレイシアは優しくウォーラの手をとり、笑いながらデュークを睨み付けた。

「ひいっ…!なにもしてないのにぃ!」

「んな訳ないでしょう。ガッツリしてるわよ。ウォーラちゃんに手を出したこと、一生許さないんだから」

「ひぃぃぃ!!!女子って怖い…」

「えぇ、そうよ。女の子って怖いの。なんなら今ここで八つ裂きにするわよ!」

「ひぇぇぇ~!!!」


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