第3話さらわれた姫たち

 デュークがそういった直後、船内からたくさんの武器を構えた存在たちが出てきた。

「うわぁ…数が多いなぁ…」

「…待って、ピュート」

「…あれ、本当に生きてるか?」

ルオンの言う通り、彼らは武器こそ構えているものの、その顔に生気はなく、目にも光は宿っていなかった。

「うーん…どこかで見たことあるわね。実体ホログラムではなさそうだけど…」

「…あぁ、思い出した。彼らは戦闘型ドールだ」

「戦闘型ドール?」

ウォーラが不思議そうに聞いた。

「戦闘型ドールはその名の通り戦うためだけに作られた人形だ。ちょっとやそっとでは壊れないように設計されていて、壊れるまで戦い続ける。勝てば次の相手を探し、負ければ塵となって体さえも残らない」

「そんな…!そんなの、あまりにも…!」

「そうだな。可哀相だ。だが…すまない」

ハクは物音1つ立てずに刀を構え、何体かの武器をはたき落とした。

「…え?」

あまりに速すぎて、見えなかった。

「すごいでしょう?ハクは銀河一の強さを誇る剣士なの。人形ごときにハクが負けるわけないわ」

「こらグレイシア、負けフラグを立てるんじゃない。それを回収するのは私なんだぞ」

「あら、回収しちゃダメに決まってるじゃないの。負けないでね?銀河最強さん?」

「さらっとプレッシャーをかけるんじゃない…」

ハクの呆れた声がする。

どうして…どうしてそんなに余裕で居られるんだろう。

戦うことが怖くないの?

面倒事に巻き込まれることがいやじゃないの?

今まで私が出会ってきた存在たちは、未来が視える、と言っただけで怖がり、嘲り、怯え、あるいは怒った。

でも、彼らは違った。

面倒事に巻き込まれても私に何も言わなかった。

戦う事になっても、特に何も変わらなかった。

この存在たちは、普通の存在とは違う。

ウォーラの中で、強くそう感じた。

「ルオン、囲まれたら厄介なことになる。手短に済ませるぞ」

「分かってらぁ!おい、ランディ、ピュート、ちゃんと姉上とチビッ子を守るんだぞ」

「分かってる!グレイシアさま、ぼくたちより強いでしょ?」

「えぇ。心配しなくても大丈夫よ」

「ウォーラ様、安心してくださいね。ぼくらがきっちり守りますから」

「ランディさん…!」

「あれ?ぼくは?」

「ピュートさんも!ありがとうございます」

「私は?私は?」

「グレイシア、キリがないぞ…」

「ハク!何グダグダしてるんだ!早く行くぞ!」

「分かっている。援護は任せろ。だから思いっきり暴れてくれて構わない」

「んな存在をゴリラか化け物みたいな言い方しやがって…」

「そんな言い方をしたつもりはない」

「そんな言い方してんだよ!」

言い合い(?)をしながらもハクは再び刀に手をかけ、ルオンは手にグローブをはめた。

「途中でバテて足引っ張るなよ」

「それはこちらの台詞だ。私より先にバテたらグレイシアと交代してもらうぞ」

「なんで姉上なんだよ!」

数多の戦闘型ドールをいなし、かわし、受け流しながら、ルオンとハクはドールたちを戦闘不可能にしていく。

数分たつ頃にはドールたちが残した武器が辺りの地面に散乱していた。

「うわぁ~、危ないねぇ。なんで武器も一緒に消えるようにならなかったんだろ」

「全部倒したら消えるんじゃない?」

「この武器全部回収して溶鉱炉に入れてやろうかしら」

「グレイシア様、今考えることではないと思うのですが…」

ヒュンヒュンッ!

風を切り裂き、飛びかかってくるドールたちを、グレイシアの矢が目にも止まらぬ速さで射抜いていく。

「すごい…!」

ウォーラが思わず呟いた。

「私は遠距離武器を得意としているの。とはいえ、銃なんかはうるさいから嫌いなんだけどね。だから、弓が一番使い勝手がいいのよ」

「へぇ~、ランディさんたちは何の武器なんですか?」

「ランディは両手短剣で、ピュートはヤリ、ルオンはグローブ、ハクは刀ね」

「刀?剣じゃないんですか?」

「この星は、和風の場所、和地区と洋風の場所、洋地区に分かれていてね。ハクは和地区出身なの。だから着ているのも洋服じゃなくて和服。持っている武器も剣じゃなくて刀なのよ」

「へぇ~。洋風の場所と和風の場所の2つに分かれているなんて、この星は面白いですね」

「でしょう?」

グレイシアは得意気にウォーラに笑いかけた。

「グレイシアさま!後ろ後ろ!」

「危ないです!」

急にランディとピュートの大声がして、グレイシアとウォーラの顔スレスレを、短剣とヤリが飛んでいった。

「あら、気がつかなかったわ。ありがとう、2人とも」

「もー!気をつけてね!」

「結構ギリギリなんですから!」

「分かったわ」

そんな会話を聞きながら、ウォーラは悔しくなった。

(私も、戦えたらなぁ)

そうしたら、みんなを守ることができるのに。

怖がらせないですむのに。

グレイシア様とハクさんと、一緒に戦うことができるのに。

強くなりたかった。

誰かを守れるほど、強く。

…その時だった。

「……うわ!」

後ろに手を引かれ、どこかに連れて行かれる。

グレイシア様かと思ったけど、違う。

グレイシア様は、こんなに乱暴じゃない。

「ウォーラちゃん!」

「ウォーラ様!」

目の前で2つ、空を切る気配がした。

「グレイシア様、ランディさん?」

私の手を掴んでいるのは誰なんだろう。

分からない。

分からないけど、ひどく胸騒ぎがした。

「じゃあね~、バイバイ」

最悪な声が聞こえてきた。

デュークの声だ。

私は…捕まったんだ。

そのままウォーラは艦内に連れていかれる。

動揺のせいで、何も言うことができなかった。

一方のハクたちは

「ハクーーー!!!ルオンさまぁーーー!!!ウォーラが!」

「「!!!」」

ハクとルオンはハッと顔を上げ、同時に駆け出した。

「ウォーラがどうした!」

ルオンが叫ぶ。

「捕まっちゃった!あの変態ロリコン犯罪者に!」

「今はどこにいる!」

「もう船の中に連れて行かれた!」

「くっ…!」

頭上で戦艦が上昇していく。

「…あれ?そういえばグレイシア様は?」

ランディの一言で、ハクの頭の中が一気に冷静になった。

そうだ。

そういえばグレイシアが見当たらない。

ハクが辺りを見回した時、船のスピーカーからデュークの声が流れてきた。

『あー、あー、…聞こえてる?行った通り、ウォーラはもらっていくね。痛い目見たくなかったら追いかけて来な…え!?なんでそこに君がい…痛い痛い!え、ちょっ、やめてって!痛いよ!なに?マイク?やだよ!え、こらちょっと!』

「…何が起こってんだ?あの船の中」

「なんか…すごく恐ろしいことが起きてそう」

「怪我人が出ませんように…」

「いやな予感がするな…」

数秒のマイクの取り合いのあと、スピーカーから思いもよらない人物の声が流れた。

『あ、あー、ハク、ルオン、ランディ、ピュート、聞こえてるかしら?グレイシアよ。この船、これからフォンガ星に向かうみたい。え?なに?言っちゃダメ?いいじゃない、ちょっとくらい。ウォーラちゃんならちゃんと守るし、指一本触れさせないから安心してね。でも、なるべく早く助けに来てほしいわ。私、手荒な真似はあまりしたくないの』

ブッと、スピーカーからの声が切れた。

「…あーあ」

「デュークって存在、ほんとに可哀相」

「一番乗せちゃいけない存在を乗せて行ったな…」

「ハクの予感もよく当たるもんだな…」

「…よし、追いかけるぞ」

ハクがくるりときびすを返した。

「追いかけるって、どうやって追いかけるの?」

「なんだ、ピュート、忘れたかの?」

ハクはすっと、開けた丘の方を指さした。

「私も船を所有している。早く行くぞ。見失ったら面倒だ」

「さすがハク様!確かに、船がなければ宇宙最強にはなれませんね!」

「いや、別にそんなことないと思うが…」

「なんだっけ、ハクの船の名前」

「戦艦ルーンネトラ、だ。ピュートもしかして、意外と忘れっぽいのか?」

「全然?そんなことないよ?」

「船の名前が長すぎるだけじゃないのか?」

「それを言ったらこの星と字数一緒だぞ」

「それもそっかぁ」

「なんでそこは納得するの!?」

「ほら、もういいからさっさと行くぞ。いつまでもグダグダしているわけにはいかないんだから」

「でも、グレイシアさまなら1人であの船墜落させちゃいそうだけどなぁ」

「ピュート、それは言っちゃいけないお約束」

「そんなの姉上の前で言ってみろ。地獄の果てまで追いかけられるぞ」

「グレイシアが怒れば、どんな天国も一瞬でも、地獄に変わるからな」

そんな会話をしながら、ハクたちは大急ぎ(?)で戦艦ルーンネトラに乗りこんだ。

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