第2話因縁の相手

 大穴の先の空には、巨大な戦艦が浮かんでいた。

「あーあ、壁に穴あいちゃったね」

「これはまた、修理が大変だぞ~。なぁ、姉上。…あれ?姉上?」

「コラー!勝手に存在の家壊してんじゃないわよ!頭おかしいんじゃないの!?ちゃんと修理してから帰ってよね!」

「グ、グレイシア様落ち着いてください!」

「あ、あのー、えっと?」

ウォーラが戸惑ったような声を出す。

「あぁ、いつものことだ。気にするな。…そういえば、自己紹介がまだだったな。私はハク。今怒っているのがグレイシア。グレイシアを姉上と呼んでいるのがグレイシアの弟、ルオン。優しい声をしているのがルオンの部下、ランディ。騒がしいのがグレイシアの部下、ピュートだ。…さてと、あの戦艦が敵、ということで構わないか?」

「…もう、居場所が知られているなんて...」

「…あれ?ハク様、あの戦艦についている星旗って…」

「フォンガ星の物か。と、言うことは…」

ハクとランディは同時にウォーラの方を見た。

ウォーラが、目を伏せながら消え入りそうな声で答える。

「…私にとっての因縁の相手…フォンガ星の王子、デューク様です」

「これは…何かと厄介なことになってきたな...。なぁ、グレイシア…あれ?グレイシア?」

「コラー!あんたたち、話聞いてるの!?修理しろって言ってるのよ!」

「まだやってる…」

「グ、グレイシアさま!落ちちゃう、落ちちゃうってー!!」

「い、1回落ち着いてください!姉上ー!!」

「えーっと…その、ハ、ハクさん、ランディさん、これがいつも通り…なんですか?」

「…いや、なんというか…」

「これはさすがに…特例…ですね…」

「やっぱり…」

その時、船のスピーカーから声が聞こえてきた。

『あー…あ、マイクテストマイクテスト、あ、あーよし、OK。えーと、ウォーラ?そこにいるのは分かってるんだよ?早く出てきてくれない?』

「…っ!」

ウォーラは明らかに怯えている。

「…グレイシア、ちょっと」

ハクに呼ばれ、ようやく一段落ついたグレイシアはハクのもとに駆け寄った。

「なに?どうしたの?」

「~…~……~~~…どうだ?いけそうか?」

「…ふふっ。ハクも案外思い切った事するのね。分かったわ。ちょっと待ってて」

グレイシアはクスクスと笑いながら城の奥から弓を取ってきた。

「グ、グレイシア様、何を?」

「まぁ見てて!ハク、いくわよ」

「あぁ」

グレイシアが弓矢を放つと同時に、ハクがその辺に転がっていた城壁を思いっきり投げた。

グレイシアの矢が戦艦の片翼を貫き、ハクが投げた城壁がガラスを割った。

「何やってんだよ2人とも!?」

『ひっどーい!よくもぼくの船を壊したね!?とゃんと修理してよ!?』

「お前が言うな」

「存在の城の修理費用払ってから言いなさい!もちろん迷惑料及び器物破損料、これからの態度によっては暴行罪としてハクに突き出してやるんだから!」

『ワアヒドイ』

「本当の悪とは一体何なんだ…」

「姉上…法の力で無理やり解決しようとしないでください…」

「さすがにあのデュークって存在が可哀相…」

「またハク様が巻き込まれてる…」

「これが日常なんですか…?」

「ウォーラ、これを日常だと認識してしまえばこちら側に来てしまうぞ」

「お願いですからウォーラ様はまともなままでいてください」

「え、は、はい…?」

船はゆっくりと高度を落とし、少し離れた場所に着地した。

「…」

ハクが無言で腰にある刀に手をかける。

「とりあえず外出るぞ!ほら姉上も!」

ランディとピュートがウォーラと手を繋ぎ、ルオンがグレイシアの背を押し、ハクがその後ろをついていって、全員が外に出た。

船の前まで行くと、デュークと名乗る男が優雅にビーチベッドに寝そべってお茶をしていた。

「「「・・・」」」

ハク一同は何も言わない。

「やぁやぁ。遅かったじゃないか」

ハク一同は少しも動かない。

「もうぼくは待ちくたびれたよ」

ハク一同は誰もツッコまない。

ただ無言で、クルリときびすを返した。

「おーい!ちょ、待って待って!うそうそ!冗談だって!」

「茶番は終いか?ならば私たちは帰らせてもらう。君も長居はオススメしないぞ」

「用件が済みましたらお引き取りください」

「これ以上ここにいると姉上がキレるぞ」

「修理費用はちゃんと払ってね?」

「顔は笑ってるけどめちゃくちゃ怒ってるよ」

「ワオこのメンツ、すっごく怖いな。何でだ?」

「もう用は済んだようだな。では我々はこれで失礼する」

「あー!待って待って!ちょっとストップ!」

「ちょっとだけよ?」

「帰るのは別に構わないよ。でも、その水色髪の子…ウォーラは置いていって」

「断る」

ハクが即答した。

「まだどうしてか、言ってないのに?もしかしたら彼女にとっては良いことかもしれないよ?」

「あらぁ…あなた、一体何を言っているのかしら?」

グレイシアが、ウォーラの手を優しく包み込みながら言った。

「もしそれが彼女にとって良いことなのだとしたら、ウォーラちゃんがここまで怯えるはずないじゃない。何をしようとしているのかは知らないけど、彼女を利用しない方向で物事を進めてね」

「えー、そんなこと言われてもなぁ…。ねぇ、君たちその子がどれだけの力を持ってるか分かってるの?」

「え?未来が視える、ただそれだけでしょ?」

「あとは目が見えない…くらいですね」

「それ以外は普通の子供じゃないか」

「ただ勘がいい、と考えればウォーラは普通の子供だ。大体、何普通に未成年をさらおうとしてるんだ」

「この誘拐犯!犯罪者!ロリコン!変態!」

「あっち行け!ウォーラ様に近づくな!」

ランディとピュートが小石を投げまくる。

「無邪気なこいつらにあそこまで言われるとは…アイツ、めちゃくちゃ嫌われてるな…」

ルオンが呆れるその横で、ウォーラはポカンと口を開けていた。

驚きのあまり声すらも出なかった。

普通の子、と言われたことが、あまりにも衝撃的すぎたからだ。

「あ、あの、皆さん」

「大丈夫よ、ウォーラちゃん」

「ぼくらがどうにかしますから」

「オレたちはこう見えて強いんだ」

「いざとなったらハクがなんとかしてくれるから安心して!」

「なんでまた私が巻き込まれてるんだ.…。でもまぁ、何かあればグレイシアと一緒にどうにかする。だから大丈夫だ」

「ハク?なんで私まで巻き込むの?」

「…そんなこと言われても、ぼくの計画にはウォーラが必要なんだ。…平和的に行きたかったけど…君らがウォーラを渡してくれないのなら」

デュークは大ぶりのナイフをハクたちに向けた。

「力ずくで奪うまでだ」

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