第5話2人との再会
グレイシアがデュークを脅しているのなんて全く知らないハクたちは、戦艦ルーンネトラを下りてフォンガ星のすみっこの野原に向かった。
もう半年たっているというのに、その被害はまだ完全には癒えていない洋だ。
自然の力とは恐ろしい…。
「ねぇハク、グレイシアさまたち、本当に来るのかなぁ」
「来るだろう。例えグレイシアが偽情報を掴まされていたとしても、来るさ」
「あー…なんか、反論できないのが悔しいぜ…」
「はい…」
「…お、来たみたい………だ?」
遠くの方を見つめていたハクが、呆れたように目を細めた。
「…」
ルオンはあんぐりと口を開けて固まっている。
「あっ!ハク!ルオン!ランディ、ピュート!まさか私たちより来るのが早いとは思わなかったわ!」
「わぁぁ!グレイシアさまぁ!」
「ウォーラ様!ご無事で何よりです!お怪我はございませんか?」
「ランディさん…!はい、ずっとグレイシア様が一緒にいてくださったのでちっとも怖くありませんでした!」
「当たり前じゃない!ウォーラちゃんのキレイな手に触れたこと、後悔させてやったんだから!」
「あー…そりゃそうだろうよ…」
ルオンが苦笑で顔をひきつらせながらデュークの方を見た。
「…はぁぁぁぁぁぁぁ…」
デュークは燃え尽きたように真っ白で、今にも風に乗って灰のように吹き飛ばされてしまいそうだった。
「分かりやすく燃え尽きてるな」
「こいつ、本当に珍しく姉上をキレさせたからな。ふー」
「あ、飛んでった」
「それにしても…一体何をしていたんだ?ここに来るまでの間、少し時間があったろう?」
「えーっとね、あいつにお茶を出してもらって、ウォーラちゃんとお話してたの!」
「敵サイドにお茶を出させるグレイシア様、ちょっとすごかったです…」
「グレイシアはすごいからな」
「はい、そうですね。ですがハク様がおっしゃっているすごい、は、もっと別の意味のものでは…?」
「そうだが?」
「悪びれもせず言い切った!?」
「それにしても…この星も空気がキレイだな」
「ハク?話逸らしてもムダだから諦めた方が身のためだぞ?」
「でもまぁ、確かにキレイなところね」
「グレイシアさまが怒ってない!?」
「ウォーラちゃんは、どの辺りに住んでたの?」
「私はこの辺に住んでました!ここら辺は星の中心部とは違って田舎なんですけど、とってもいいところなんですよ!」
「そうだな。ここもまた、ルナ・ムーンとは違った良さがある。とてもキレイだ」
「ねぇハク!ちょっと遊んで来てもいい?」
「グレイシア様、ルオン様、よろしいでしょうか?」
「あぁ、構わない」
「いいわよ。行ってらっしゃい」
「まぁ、どうしてもってんなら…いてててて!あ、姉上やめて!」
「やった!ウォーラ、行こう!」
「こっちです!ウォーラ様!」
ランディとピュートはウォーラと手を繋いで走り出した。
野原ではしゃぐ3人は、ごく普通の子供たちに見える。
「…楽しそうだな」
「えぇ。そうね」
こうして見ていると、あの3人は…いや、私たちも含めて幸せで、普通の人生を送っているように見えるのに。
どうして私たちは、こうして集ったのだろうか。
「ハクー!グレイシアさまぁ!」
「ルオン様!こっちに来てください!」
「お花がたくさん咲いてます!」
ハクたちは顔を見合わせ、肩をすくめて笑った。
そして
「あぁ、今行く」
「すごい!本当にたくさんのお花が咲いてるわね!」
「ったくしゃーねぇなぁ。…くくっ!」
3人はピュートたちのもとに駆け寄った。
今だけでも、この子たちに平和な時を感じてほしい。
そう…ただ、それだけだ。
「花かんむりでも作ってやろうか?」
「え!?ほんとですか?やった!」
「すごいですハク様!」
「なんで作れるんだよ!手先器用だな~」
「ぼくも作れる!どっちが上手くできるか勝負だよ!」
「あぁ、望むところだ」
「あらあら、面白くなってきたじゃないの。私も参戦しようかしら」
「グレイシア様強すぎですって!」
「それはもはやチート級だろ!」
わずか数分後…
「うおぉぉ!ハクすげぇ!」
「すごいです!これはさすがにハク様が優勝ですね!」
ランディとルオンの手には、もはや花だけで作ったとは思えないほどのキレイな花かんむりがあった。
「ちぇ~、負けちゃった」
「でも、ほんとにすごいわね!」
「まぁな」
ハクはルオンの手からヒョイと花かんむりをとって、ウォーラの頭に乗せた。
「え…?」
「うん、よく似合っているな。やはり君は、泣くより笑っていた方が可愛らしいと思うぞ」
「…っ!」
私は目が見えない。
でも存在の感情くらいは分かる。ハクさんは今、微笑んでいる。
信じられないほど、優しく。
その優しさが、今のウォーラには辛かった。
(全くこの存在は…。でも、きっと、きっと…)
ウォーラは笑った。
けれどハクは、その笑顔を何とも言えない表情で見ている。
その時だった。
キン!!
ランディが飛んできたナイフをはたき落とした。
ハクは微動をだにしない。
身じろぎ一つせず静かに座って動かない。
ただ、その左手は自身の刀にかけられている。
グレイシア、ルオン、ピュートはすぐ立ち上がり、ランディの横に立った。
彼らの見据える先には、ナイフやら武器やらを構えたデュークが立っている。
「ぼくがいること、忘れないでもらえる?」
「すっかり忘れてたよ」
「あのまま風に乗って吹き飛んでもらってもよかったのですが?」
「おいおい…ランディ、ピュート、ちょっと言い過ぎじゃないか?」
「このくらい言っていいのよ。ウォーラちゃんを傷つけたんだから」
ハクはウォーラと共に立ち上がった。
後ろを、向いているので、その表情は分からない。
…一体、どれくらいの時間がたっただろう。
たった数秒だったのだろうが、ウォーラにとってはとても長い時間が過ぎたように感じた。
「今の攻撃、ウォーラを狙ったものではないな。明らかに私を狙っていただろう」
ハクの声には、何の感情も宿っていなかった。
ただ、淡々とした声だった。
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