なりたいものになる。どんなことをしても。

北欧神話の世界に、異物のように生まれた女神、エリカ。
本作の主人公である彼女は、和装で刀を用いる風変わりな三級神。発明の女神です。

エリカは、異質で低級な存在として、周囲の神々から白眼視されていました。
それでも彼女は定められた運命に抗います。自分を薄遇する世界の枠組みを打ち破り、主神オーディンを凌ぐ力を得ようと足掻くのです。

放縦に力を求め続けた孤独な女神は、飽くなき希求の果てに、なにを見るのでしょうか。

本作は正史ルートという正統的な進行と、正史から分岐したIFルートという二つのルートを併記した斬新な構成となっています。
あるべき行先と、あり得た行先。
二つの道すじが、エリカの運命を描き出します。

願望と倫理と良心と欲望とに翻弄され、そうとしか生きられなかった主人公のあり様を描くどちらのストーリーも、読む方に万感の思いを抱かせることでしょう。

現在の本意ではない自分を覆し、なりたいものになるという事。
生涯を切り拓く姿勢として賞賛されるべき事柄です。
エリカのそれは、周囲との関係性を一方的に変えていく事。状況を顧みず、ただ努力する事でした。

本作は、オリジナルの女神を挿入することで既存の神話を改変し、物語として編むシミュレーションストーリーでもあります。
それはとりもなおさず、新たなる神話の創造です。
本作は豊穣な物語性が広がる新神話なのです。

ここに、皆様へ新たなる神話世界のご訪問をお勧めします。
どうぞ、御一読くださいますように。

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