「仙」とは、謎めいたものを言う。その仙人が対峙し、ともに生きたその相手は、壺に渦巻く水だった。水を保ち、水を澄ませ、水とともに渦巻いて長い時をすごした仙人。彼が去ったその先は、天か地か、無か、はては知られざる仙境か。俗人たる我々にも、仙人の渦を垣間見せてくれる掌編。
仙人を描いた物語。淡々とした語りは民話のようで寓意があるようで、巷説の断片のようで。なんとも判じられないうちに物語は閉じます。渦とは何か。水とな何か。壺とは何か。仙人とは何をする存在か。読む者はいくつもの〝何か〟を埋めようとするでしょう。でも、わかりようもない。そういうものだと受け取ることしかできない。飄々とした間を味わうこと。その時間を楽しむことが、本意ではないでしょうか。当たり前に生きることをしない者の往来の情景を眺めて寛ぐ。本作は、そんな一息つける掌編なのです。ぜひ御一読ください。
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