お付き合いしている幼馴染(同性)が超絶可愛すぎることは、俺だけの秘密。【BL】

柚月なぎ

【 特別編 】聖なる夜は君とふたりで

第一話 クリスマス・イブ


 今日はクリスマス・イヴ。十二月になった頃にはすでに企業のクリスマス商戦が始まっていて、量販店や商店街のイルミネーションや飾り付けはまさにクリスマス一色になっていた。


 イベント企画や制作、運営などをする企画会社に大学卒業後に就職した俺にとっては、初めてのクリスマス関連の仕事。主にショッピングモールでのイベントが多かったが、それも今日まで。お昼と夕方の二回に行われたイベントも終わり、片付けもスムーズにできた。


 皆早く帰りたい気持ちが強かったというのもあるのかも。会社の先輩たちは家族がいるひとの割合が多く、もちろん恋人と過ごすひとたちも少なくない。ひとりで過ごすひとも中にはいるかもだけど、そこはあえて触れないというか····ほら、ひとそれぞれってね。


 俺、七瀬ななせ 海璃かいりには同棲している可愛い恋人(プロポーズ済)がいる。その子は幼稚園の時からの幼馴染で、今は夢だった幼稚園の先生をしている。一週間前くらいに、園児たちのために用意していたクリスマス会のことを楽しそうに話していたのも記憶に新しい。


(同棲してから初めてのクリスマス・イブ。これから外食して、ちょっと贅沢なホテルも予約済みだ)


 クリスマスは社長のルールで会社は休み。小規模な個人の企業だから、そういう融通が利くんだよな。その代わり人数が少ないからひとりの仕事量はまあまあ多めだけど、やりがいはある。


 幼稚園はすでに冬休みに入っているので、一緒にいる時間が増えて嬉しい。そんな俺の恋人の名前は、東雲しののめ 白兎はくと。俺たちは同性同士だけど、お互いにずっと片思いをしていた。


 俺は幼稚園で初めて会った時からずっと、白兎のことが好きだった。そんな十数年の初恋を拗らせた結果、幼馴染が好きな乙女ゲームを制作(色んなひとの力を借りて)して告白するという、今思えばとんでもなく遠回りな作戦を実行した。


 その後、誰にも話していないすごい体験をしたのだが、この世界線ではなかったことになっているのでこの場では割愛させてもらう。


 で、そんな両片思いのおわりは、高校二年の夏休み。もうひとりの幼馴染とその友人のお膳立てもあり、俺は白兎に告白した。お互いが同じ気持ちでいたこと、それだけでも奇跡だっていうのに、すでに結婚の約束まで交わしている。俺たちは家族公認、友人公認の恋人として、現在同棲中なのだ。


 駅前はかなり人通りが多く、ほとんど家族連れか

カップルだった。大きなクリスマスツリーがキラキラとイルミネーションを点滅させ、周りの店から流れてくるBGMも当然のようにクリスマスソングばかり。待ち合わせ場所であるいつものカフェに入ると、すでに白兎が待っていた。まだ十分前だけど、いつから待ってたのかな。


「ごめん、待った?」


「ううん。いま来たとこだよ」 


 白兎はそう言ってにっこりと笑ったけど、俺の目は誤魔化せないんだからな。テーブルの上には少し前に注文したのだろうカフェラテが半分以上減っていたし、読みかけの小説には真ん中より後ろの方にしおりが挟まっている。


(俺の予想では三十分以上は待ってたな····)


 別に隠さなくてもいいのに、気を遣ってくれたのかも。俺の恋人は可愛いくて健気だ。黒縁の眼鏡もちゃんとかけてくれている。ひとりで外に出る時や仕事中は、眼鏡を外さないで欲しいという俺との約束を律儀に守ってくれているのだ。今回はふたりきりのデートだから、コンタクトをしたうえで伊達眼鏡をしていたわけだが····。


(じゃないと、変な虫が寄ってくるし)


 白兎は本人が自分の容姿を気にするくらい可愛らしく、二十代前半でも高校生に見えてしまうほどの童顔。服装も気を付けてあげないと女の子と間違われてしまうくらい、超絶可愛い顔をしているのだ。


 俺がいない時にナンパでもされたら気が気じゃない。しかも冬は特に、そのベージュのダッフルコートを羽織ってしまえば、もはやどっち? と思われてもおかしくないだろう。


「じゃあ、行こっか」


「うん、」


 白兎は眼鏡を外してケースに入れ、小説と一緒にトートバッグに押し込むと、白いセーターの上に横に置いていたコートを羽織り、俺が差し出した手に自分の手を重ねた。


 そう、つまりは眼鏡を外してコートを羽織ってしまえば、俺たちが男同士で恋人繋ぎをしていても誰も疑問に思わないってこと。まあ、俺は別に気にしないし、堂々と腰に手も回せちゃうけどね。


 それに、周りはみんな自分たちのことでいっぱいだった。俺たちの事なんて、俺たちだけが知っていればいい話で。


「白兎、寒くない? これから行く店、ここから少し歩くんだけど、平気?」


「うん。海璃の手、あったかいから、」


 言って、はにかむように小さく照れ笑いをした白兎の頬はちょっとだけ赤く染まっていて。俺はそれを直視してしまったせいで、その照れが伝染うつってしまったようだ。


「そ、そっか。なら良かった」


 今夜はクリスマス・イブ。


 俺には白兎がいるからなにもいらない。白兎にはもちろん、欲しがっていたものを用意してる。これから行くちょっとお高めの店も、朝食のビュッフェが有名なホテルも。そこはやっぱり大人になった特権だよな。


 聖なる夜は大好きなひととふたりきり。


 美味しいものを食べて、ちょっとだけお酒も飲んで。それからたくさん愛し合うって決めてるんだから。下心なんて心外だ。俺たちはいつだってあの頃の気持ちのまま、毎日恋をしている。


 明日の朝、メリークリスマスって白兎の耳元で囁いて、いつものようにおはようのキスをするんだ。




◆ 第一話 クリスマス・イブ 〜End〜 ◆

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お付き合いしている幼馴染(同性)が超絶可愛すぎることは、俺だけの秘密。【BL】 柚月なぎ @yuzuki02

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