親愛なる諸兄姉へ

船越麻央

迷路に潜む怪物

 親愛なる諸兄姉へ。


 私はもはやこの地下迷宮から抜け出すことは出来ぬ。

 このイラク奥地の異世界へ足を踏み入れた時にすでに覚悟は出来ていた。邪悪な彼らは私を生きて返さぬだろう。私の手記とノートパソコンを残しておこう。願わくばアーカムのミスカトニック大学、シャルンホルスト博士に届けていただきたい。私の最後の望みだ。この暗黒の深淵には恐怖の怪物が潜んでいる。彼らは遥かなる太古、外宇宙から飛来し六億年前に地球をはじめとして太陽系の四つの惑星を支配した。

 翼もなく飛行し、風を操る半ポリプ状生物である。その不気味で異様な姿を誰が想像できるだろう。私たち人類とは相互理解不可能な存在である。だが彼らはしばしば地上に現れ目撃されている。未確認飛行物体の多くが彼らであることは受け入れがたいが事実だ。そのおぞましい存在を私自ら発表できないのは無念で心残りである。

 砂漠にうもれた禁断の廃都の地下迷宮。ここには死の風が吹いているのだ。彷徨えるアラビア人の死霊が私を待っている。

 地の底から、甲高い、口笛のような音が聞こえてきた。彼らがやって来たようだ。五本の丸い指からなる巨大な足跡が特徴の彼らから逃れる術はない。異界の迷路に潜む怪物め。ここを訪れた者は狂乱状態になり最後には怪物に食われる運命だそうだ。私のこの手記もここまでだ……。


 おお神よ! 失われた記憶よ! 


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