クリスマスに焼き鳥を食べるタイプのおじさん

白川津 中々

◾️

聖夜。


卓に置いた焼き鳥に齧り付き、日本酒を啜る算段。

家族や恋人、あるいは友人と過ごす事が善とされている二十四日。俺は一人でワンルームである。


こんな日に焼き鳥はしくじったと思った。恐らく日本で鶏肉が一番売れる日。図らずともそこに便乗したようで気恥ずかしい。今日は焼き鳥と日本酒でやると決めていたとはいえ、不覚である。


ただ、準備さえしてしまえばこちらのもの。レンでチンで即座に開かれる一人酒宴。お猪口と徳利を引っ張り出して雰囲気作り。こうなれば安酒も上等酒だ。強めに温めた焼き鳥を一口食べ、酒で追いかける。


「美味い」


一人、つい口から溢れる喜び。甘ったるいタレとぶよぶよの食感。美味いわけはないが、美味いのだ。この幸福は理屈ではない。


「メリークリスマース」


窓の外から聞こえる浮かれた声。早いうちから酔いに酔った男女が若さを消費しているようだ。聖書も読んでないような人間が何を祝っているのか知らんが、メリーである事は確かだろう。楽しくおめでたい様子が伝わってくる。


「メリー、クリスマス」


一串食べ終わり、顔も知らない若者につられて意味もなくそう呟く。不思議なもので、なんとなく、暖かくなった気がする。酒のせいだろうか。なんでもいいか。


クリスマス。

焼き鳥と日本酒を嗜む時間。

ゆっくりと、ゆっくりと、酔いが回る。

一人だが、いい夜だ。


外から聞こえるジングルベルに耳を澄ませながら、そう思った。

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