5.紙村弥生③

九月二十五日(水)【紙村かみむら弥生やよい



***



 赤池冬美の訃報は、事故がニュースになっていたこともあり、翌日には社内に広まっていた。


 踏切事故。彼女は車に乗ったまま遮断機の降りた踏切に侵入し、サイドウインドウをけて車外に脱出した。しかし、鉄道車両に轢断れきだんされて亡くなった。


 その後、不自然すぎる状況が明らかにされる。車にはブレーキがかかっており、目撃者によるとまるでなにかに押されたように車が動いていたという。赤池さんがドアをけずに窓から車外に出た理由も不明。そして彼女は車から出ることができたにも関わらず、その場から──かのように動けず、電車にかれた。


 わたしは訃報を聞く以前、三連休明けから赤池さんについて調べていた。彼女と電話で話したときに違和感を感じていて、彼女が嘘をいていたのではないかと疑っていたからである。


 その推測は正しかった。赤池さんが『彼氏の話』としていたものはすべて『赤池さん自身の話』であった。彼女は後輩社員を連れて心霊スポットに行ったことがあって、その際もいわく付きの物を蹴ったり、破損した一部を持ち帰ったりしたらしい。


 彼女は手遅れなほどの数の霊に取り憑かれて──取り憑かれるようなことをしていて、悲惨な目にうのは避けられない状況だった。


 霊に取り憑かれたからといって、それがよほどのモノでない限り、死ぬなんてことはあり得ない。しかし赤池さんのようにたくさんの霊を集めてしまい、しかもその霊たちの標的にされてしまっていたとすると──


 電話で聞いた状況から察するに、彼女に取り憑いていた霊の数はおそらく百を超えていた。それだけ集まれば危険な霊が混じる確率は高くなるし、それだけ集まれば無害の霊たちですらとは限らない。


 つまり彼女はいつ死んでもおかしくなく、その『いつか』が、たまたま先週の水曜日だったというだけである。



***



 LINEにメッセージが届く──


 その相手の名前を見て、わたしは五秒ほど呼吸をするのを忘れた。


 


 彼女は死んでいる。赤池さんのアカウントになりすまして誰かがメッセージを送ってきたのだろうか。


『あなたのせいよ。絶対に許さないから』


 メッセージ本文はこれだけ。わたしは少し考えて──と推定した上で、彼女のメッセージに返信をした。


『因果応報でしょう。許さなくて良いからさっさと逝け』

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その人はもう助かりません《紙村弥生の"因果応報"心霊ツアー》 猫とホウキ @tsu9neko

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