4.赤池冬美②
九月十八日(水)【
***
日曜日から今日まで、新型コロナウイルスに感染したときの何倍も
幽霊が見えてしまう現象は月曜日までの三連休が終わっても
しかしどうやら、その悪夢も『終わった』ようである。
夕方、浅い眠りから目を覚まして布団から
起きて久しぶりに身支度を整える。その途中、鏡を何度も見たが、やはり私以外の誰かを映したりはしない。
「これは、私の勝ちってことで良いのかしらね。紙村弥生」
二度とこんな目に
あれだけの幽霊に取り憑かれていたにも関わらず、これまで私の日常生活に支障はなかった。
奴らは私に取り憑いたところで周りからじっと見続けることしかできず──おそらく物理的に干渉する力がない。そんなものをどうして
「その人はもう助かりません……ふん、なによそれ。殺せるものなら殺してみなさいよ」
***
自分の車に乗って最寄駅まで来た。今日中に済まさなければならないような用事もなかったが、ずっと寝込んでいたせいで外に出たい気分だったのである。
駅近くの踏切。目の前で遮断機が降りたので停車する。電車が通り過ぎるのを待つ間に彼氏からの──ずっと無視していたLINEメッセージを読んだ。彼も幽霊が見えるようになったせいでそれなりに苦労していたようだが、会社を休むほどの問題にはなっていなかったようである。
ズズズ……ズズズ……。
「…………?」
変な音がして、私はスマートフォンを置いた。それからサイドウインドウを見る。
ズズズ……ズズズズズズ……。
景色が動いている。これは音ともに──車が動いている?
「嘘っ!?」
慌ててパーキングブレーキをかけるが、そもそもフットブレーキが効いているはずである。車が動いているのは車体ごと引きずられているからで、ブレーキの問題ではない。
遮断機を破壊しながら車は踏切に侵入し、そこで
なにが起きているのかは分からないが、とにかく逃げないと──
誰かが緊急停止ボタンを押してくれたとしても、電車はもう見えるところまで来ている。踏切の手前で
ドアのロックを外して
それならば──
私はサイドウインドウの操作ボタンを押す。それは無事に動作してくれて、細身の私であれば十分に通れるほどのスペースが空いてくれた。
もう一刻の猶予もない。私は窓のスペースから勢いよく上半身を外に出す。あいつらは車に干渉することはできても、直接私に干渉することはできないらしい。
私の勝ちなのよ、紙村弥生。絶対に生き残ってみせるから。
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